イランの核施設を米軍が空爆するというドナルド・トランプ米大統領の決定は、イランの核開発問題をめぐる紛争を一段と激化させるものだ。世界経済、とりわけ石油市場が混乱に巻き込まれる恐れは高い。イランとその代理勢力は、ここ数カ月間のイスラエルの攻撃で著しく弱体化しているものの、決して牙を抜かれたわけではない。
イスラエルのネタニヤフ首相はそうなることを強く願っているだろうが、今回の軍事衝突がイランの政権交代につながる可能性は低い。歴史上、イランの人々はどんなに不人気な指導者であっても、外国から侵略されればその下に結集してきた。たとえば1980年にイラクがイランに侵攻したイラン・イラク戦争で、イラクのサダム・フセイン大統領(当時)はイラン国民、特に南西部のアラブ系住民の蜂起を促せると考えていた。実際には逆のことが起こった。
米軍の攻撃に対してイラン現政権は激怒しており、少なくとも当面は交渉に応じないように見える一方、イラン側から停戦と制裁解除につながる新たな合意を求めてくる可能性はある。ただ、残念ながらイスラエル(少なくともネタニヤフ政権)が何らかの合意に応じる可能性は不透明であり、それは紛争の継続、あるいは拡大を意味する。
現時点での不確実性は、イランが軍事的な報復に出るかどうか、その場合どのような報復攻撃が行われるかである。イスラエルがイランを空爆している限り、イスラエルに対するイランのミサイル攻撃も続くだろう。ネタニヤフ首相はイランの政権を信用しておらず、イスラエルの存続を脅かす脅威とみなしている。イスラエルをなだめられるのは最も条件の厳しい合意だけだろうが、イラン側にそのような譲歩をする気はなさそうだ。
最も深刻な事態を生む軍事的シナリオは2つある。1つ目は米軍に対する代理攻撃であり、イランが支援するイラクの民兵による攻撃が最も懸念される。2つ目は、ペルシャ湾やホルムズ海峡での石油タンカーに対する攻撃である。イランがサウジアラビアの石油施設を攻撃するというエネルギー安全保障の専門家が長年懸念してきた悪夢のシナリオは、おそらく除外できるだろう。
むしろ、イランが中東に展開する米軍を標的にすれば、米国がイランの石油施設を攻撃することもあり得る。そうなればトランプ大統領が目指している原油価格の引き下げとは矛盾する事態になるが、この可能性は除外できない。



