英国ではすでに、起業家による新党結成の試みがある。DVDレンタル会社ラブフィルムなどを創業したサイモン・フランクスは2018年、「ユナイテッド・フォー・チェンジ(変革のための団結)」という政治運動を始めた。当時、彼は新党立ち上げのために5000万ポンド(約100億円)を調達したと報じられ、実は筆者も初期の会合に何度か顔を出したことがある。その経験から言うと、なかなか優秀な候補者リストが作成されていた。
けれども、このプロジェクトはほどなくして頓挫してしまった。それは、政治の世界でやっていくにはそれなりのスキルが求められるという現実を示すものでもあれば、英国では中道政党の需要がどうもあまりないという状況も映していた。政治的な戦いはこのところ公共領域の周縁が舞台となっていて、労働党を率いるキア・スターマー首相ですら、リフォームUKを打倒する相手と見なしているほどだ。だが、筆者に言わせればそれは誤りであり、中心・中道は空白であってはならず、困難な課題に正面から取り組む覚悟のある政党によって占められるべきだ。
米国はというと、御しがたい課題が御しがたい人物たちを政治の世界に引き寄せているように見える。マスクはその一例だ。
筆者は2019年に上梓した『The Levelling』で、グローバリゼーションの終焉がいくつかの新しい政党を生み出す可能性について思索した。類型化して挙げてみたのは、右派の「ハイマート(故郷)党」、汎グローバルな環境政党で中国人の党員多数を擁する「ディガーズ(耕作者たち)」、伝統主義の「ピルグリム党」などだ。
なかでも比較的早く実現するかもしれないのは、「ガバナンス(統治)党」というアイデアだ。この党の中核的な思想は、テクノロジーこそが公共・社会・経済生活の中心に据えられるべきであり、それを通じて人間の行動を形づくることが可能であるというものだ。このビジョンのもとでは、ガバナンスIDカードやガバナンススコアが人々の生活の一部となり、人工知能(AI)がわたしたちの日々の活動に浸透することになる。
こう書いた当時、それはただの思いつきというか、仮説的なアイデアにすぎなかったのだが、ビッグデータ、高速なAI、そして桁外れに大きな影響力を持つ起業家たちが台頭する時代の到来によって、現実味を帯びてきている。


