また、死のプロセスに関わるメカニズムは脳波だけではないようだ。死ぬ間際、脳は大量のジメチルトリプタミン(DMT)を放出すると広く考えられている。幻覚剤であるDMTは多くの植物や動物の中に存在し、ヒトの脳内でも作られる。
実際、専門誌『Frontiers in Psychology(フロンティアーズ・イン・サイコロジー)』に2018年に掲載された研究によると、DMTを投与された人々は鮮明なイメージや超越感、時を超えた感覚、経験したことのないような感情といった、驚くほど臨死体験によく似た体験を報告したという。
現在、わかっていること(とわかっていないこと)
もちろん、偶然測定された死の前後の脳波の記録は、死に際に必ず回想する、誰にでも起こるということを証明するものではない。1例にすぎない。患者はてんかんを患っており、てんかんはガンマ振動に影響を与える可能性がある。患者が本当に記憶を呼び起こしていたのか、それとも単に夢を見ていたのかはわからない。
だが、人が死ぬときに脳で何が起こっているのかはっきりしたことは言えないものの、ガンマ振動の急増やDMTの放出の可能性、ライフレビューの報告、動物における同様の発見など、これらの現象はすべて最後の意味づけの劇的な展開を示しているのではないかと推測できる。肉体が死に向かい始めても、精神は最後の鮮やかで美しい経験のために懸命に働いているのかもしれない。
とはいえ、こうした発見は死に伴う深い喪失感を埋めるものではなく、辛い思いを軽くするものでもない。ゼマール博士自身、悲しみが筆舌に尽くしがたいほど辛いものであることを率直に語っている。
しかし、ゼマール博士は声明で科学的というより私たちの慰めになるような見識を残している。「この研究から学べることは、愛する人が目を閉じ、私たちのもとを去って眠りにつこうとしているにもかかわらず、愛する人の脳は人生で最高の瞬間を再生しているかもしれないということだ」


