具体的には、ガンマ振動が急増した。ガンマ波は脳波の中で最も周波数が高く、主に海馬(記憶をつかさどる部位)で発生する。通常、ガンマ振動は回想や夢想、深い瞑想などに関連している。
このガンマ振動の急増はデルタ、シータ、アルファ、ベータといった他の振動と連動していて、人が深い記憶を呼び起こしているときや、鮮明な夢を見ているときに見られるものと驚くほどよく似た脳波パターンを作り出していた。
この前例のない発見から、ゼマール博士は「記憶の呼び起こしに関与する振動を発生させることで、死ぬ直前に脳は人生の重要な出来事のフラッシュバックを行っているかもしれない」と推測している。
臨死体験についてわかっていること
ゼマール博士は、脳が人生の終わりに一種の回想を行うかもしれないという推測は多くの臨死体験談と一致していると指摘する。
専門誌『OMEGA-Journal of Death and Dying(OMEGAジャーナル・オブ・デス・アンド・ダイイング)』に2014年に掲載された研究では、数十の臨死体験を分析した。そこから浮かび上がった共通点は「空間や時間、知覚の境界が曖昧になる」ことだった。研究者らは、このような瞬間には「喜びや幸せ、安らぎ、無償の愛」といった強烈な感情を経験することが多いと説明している。そして多くの場合、このような瞬間には壮大な回想が伴う。
興味深いことに、このような脳の働きがみられるのは人間だけではないと研究者らは考えている。似たような脳波がマウスでも観察されている。専門誌『Proceedings of the National Academy of Sciences(プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ)』に2013年に掲載された研究は、死にゆくマウスでも死の直前にガンマ振動が急増することが示されたと報告した。専門誌『Frontiers of Cellular Neuroscience(フロンティアーズ・オブ・セルラー・ニューロサイエンス)』に2019年に掲載された別の研究でも同じ所見が示されている。
このような種を超えた類似性から、ゼマール博士らの研究チームは注目に値する推論を示している。それは、種に関係なく哺乳類は最後の瞬間に深く回想するかもしれない、というものだ。最後の数秒間に意識が自分の内側に向かうというのは普遍的なものである可能性がある。


