キャリアチェンジした、という言い方はもうやめよう。
「新たなキャリア」などというものは存在しない。まったくのゼロから始めたわけではないのだ。
キャリアチェンジという考え方は、「キャリア」と「1つの職業」がひとくくりにされていた世界のものだ。ある職業のために訓練を受け、学位を取得し、キャリアの階段を上っていく。そしてのちに、別の階段に乗り換えることを決断する――。
そんな世界はもはや過去のものだ。
LinkedIn(リンクトイン)が2025年1月に掲載した記事によると、労働市場に参入する現代のプロフェッショナルは、このままのペースでいくと、キャリアのなかで就く仕事の数が15年前の2倍になるという。こうした流れをつくっているのは、テクノロジーの進歩とスキルの変化、AI(人工知能)の台頭だ。
ということで、新しい仕事に就いたからといって、キャリアチェンジしたわけではない。それは同じキャリアであって、次なる形に変化したにすぎない。あなたが職業を変えたのではなく、職業が進化したのだ。
労働市場を研究するBurning Glass Institute(バーニンググラス研究所)が実施した調査によると、現代の職業はハイブリッド化が進み、さまざまな領域のスキルが組み合わされ、従来型のキャリアパスが再定義されている。人々は職務や業界、肩書の垣根を超えて横断している。1つの肩書を捨て、別の肩書を手に入れているわけではない。これまでの経験すべてを土台にして新しい道を見つけ、スキルを応用しながら成長しているのだ。
従って、新たな分野や職務、領域の仕事に転職したばかりだとしても、自分は「初級職に戻った」と考えてはいけない。それは事実ではないからだ。
振り出しに戻ったのではなく、クライミングウォールのより高いところに登った、と考えてほしい。
人々はキャリアチェンジについて話すとき、しばしば自己弁護しようとする。「この分野については、初心者だと自覚している」とか、「まだ学んでいるところだ」などと言う。自らの価値を低く見て、内心では「ゼロからの再出発だ」と考えたりしている。
そんな風に考えるのはもうやめよう。
例えば、あなたは銀行業界で10年働いた。しかし、これは自分が本当にやりたい仕事ではないと悟り、デザインを学んでメディア企業に就職し、現在は「初級職」の業務を担当しているとしよう。しかし、あなたは初級職などではない。銀行業界で蓄積してきた何年もの経験がある。計画を立てて働き、納期を守り、同僚や顧客と協力したり、上司と良い関係を築いたりする方法はすでにわかっている。コミュニケーションの取り方、影響の与え方、ネットワークの築き方、信頼の育み方、プレッシャーの下での働き方も、もう身に着いている。
そしていまも、成長と進化は止まっておらず、新しいスキルを学び続けている。
身に着けてきたスキルや経験は、新たな職に就くときに消えるわけではない。新しい仕事へと足を踏み入れたときに、自分で消したわけでもない。
それらはあなたの土台であり、強みだ。
あなたは初級職ではない。働く業界や分野を変えたからといって、自分自身のストーリーを小さく語る必要はない。



