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2025.06.24 13:30

トランプと組む中国人起業家、彼は模倣王か天才か

中国人ブロックチェーン起業家のジャスティン・ サン

中国人ブロックチェーン起業家のジャスティン・ サン

暗号資産業界を駆け上がり、85億ドル(約1兆2000億円)以上の資産を築き上げたひとりの中国人起業家。 疑惑や批判を物もせず、トランプ新政権と蜜月関係を築くに至った風雲児の次なる一手とは。


中国人ブロックチェーン起業家のジャスティン・サンがドナルド・トランプに憧れるようになったのは、中学生のときだった。広東省の600万人都市、香港のすぐ北に位置する恵州に住んでいたころのこと。サンの学校の教師は、英語を勉強するために米国のテレビ番組を観ることを推奨した。そこでサンは、ピアツーピアファイル共有サービスのビットトレントを活用し──彼はのちに同社を所有することになる── トランプのリアリティ番組「アプレンティス」の放送をダウンロードし始めた。

早熟だったサンは、この大物実業家が示唆するし烈な競争の戦い方や演出の重要性、我の強さをもつべきという教えに魅了されたという。いずれも、儒教と中国共産主義の原理に染まった社会では疎まれるべきものだった。しかし、時は2000年代初頭。鄧小平が実施した改革によって、中国は資本主義に開かれていた。

24年の終わりにトランプ一族の暗号資産ベンチャー、ワールド・リバティ・ファイナンシャル(WLF) が行き詰まっていると耳にしたとき、彼にはそれが運命のように感じられた。WLFはこのとき、同プロジェクトへ名を連ねるトランプが次期米国大統領に選出されたばかりだったにもかかわらず、つまずいていた。

その理由は簡単に理解できた。同社のいわゆる「ホワイトペーパー(白書)」(暗号資産版の事業計画)は「ゴールドペーパー」と称され、スーパーヒーローのごときたたずまいの金を滴らせたトランプの肖像画がその表紙を飾っていた。すでに数百もの同業者がひしめく分散型金融(DeFi)プラットフォームのひとつになる計画を打ち出していたが、そのトークンは一般の米国人向けの販売が制限され、二次流通も認められていない。さらに経営体制も、信頼性を欠くものだった。

しかし34歳だったサンは、目の前に置かれた“配当”の可能性をつかまずにはいられなかった。彼は23年3月から、不正な市場操作と未登録証券の販売を行ったとして、米証券取引委員会(SEC)が起こした訴訟に直面。そんな渦中に、SECを従える米国政府をこれから率いようとする人物を、自分ひとりの力で富ませる方法に行き当たったのだ。

トランプが大統領に選出されてからわずか3週間後の11月終わり、サンはWLFの立ち上げに必要だった3000万ドルを事もなげに投じた。これがWLFトークンの購入熱に火を付け、トランプ一族がその恩恵を享受することになった。さらにその数週間後、サンは追加で4500万ドルをWLFに投資。その75%がトランプの懐に入った。公開されているWLFの規定によると、調達される資金は最初の3000万ドルを除き、全額の4分の3をトランプ一族が受け取ることになっているからだ。

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文=スティーブン・アーリック & ニーナ・バンビシェバ 写真=ガレス・ブラウン 翻訳=木村理恵 編集=加藤智朗

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