教育

2025.06.23 13:30

「科学的根拠で子育て」の指南役ー教育経済学者:中室牧子

中室牧子|教育経済学者(撮影:桑嶋維/怪物制作所)

中室牧子|教育経済学者(撮影:桑嶋維/怪物制作所)

あらゆる職業を更新せよ!──既成の概念をぶち破り、従来の職業意識を変えることが、未来の社会を創造する。「道を究めるプロフェッショナル」たちは自らの仕事観を、いつ、なぜ、どのように変えようとするのか。『転職の思考法』などのベストセラーで「働く人への応援ソング」を執筆し続けている作家、北野唯我がナビゲートする(隔月掲載予定)。


北野唯我(以下、北野教育経済学者という職業を志したきっかけから伺います。

中室牧子(以下、中室大学生のときに竹中平蔵先生の経済学の講義を履修していたのですが、終わりに学生から拍手が起こるような講義で「これはすごいぞ」と感じて、竹中ゼミに入って経済学を勉強し始めました。当時の先生は小泉政権で閣僚になる前でしたが、「経済学の学知で政策に貢献する」というのが持論でした。

北野:科学的根拠に基づいた政策決定、いわゆるEBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング)の考えですね。

中室:その通りです。私は竹中先生の背中を追いかける気持ちで、日本銀行にエコノミストとして就職しました。でも、「やりたいこと」と「向いていること」が必ずしも一致するとは限りません。当時は専門性も足りず、鳴かず飛ばずの5年を過ごして退職しました。

北野:その理由をどう分析されていますか?

中室:景気動向や国際金融市場といったマクロ経済の分析にのめり込めなかったからです。自分の関心が「教育」にあると思い知るようになったのは、その後、アメリカの大学院で教育経済学の研究を始めてからだと思います。父が公立学校の教員だったこともあり、小さいころから父の同僚や生徒もよく家に出入りしていたため、私にとって教育はとても身近なものでした。

北野:幼いときからの経験がキャリア形成に影響を与えたのですね。

中室:私は奈良県の田舎で生まれ育ちました。どれくらい田舎かというと、『となりのトトロ』で描かれているような土地、と言えばわかりやすいでしょうか。

普段、永田町や霞が関で仕事をしていると、政治家や行政官には都市部で育ったエリートが多いとわかります。有能なエリートが政治や行政に関わるのは喜ばしいことですが、恵まれた環境で育った人たちにとっては解像度の低い政策課題が取り残されてしまっているのではないかとも感じてきました。その点、私自身が田舎の平凡な家庭で育ったことで、学校とはさまざまな背景を持つ多様な人たちが集まる場だという実感があったことは、研究のスコープを限られたものにしないという意味で重要ではなかったかと振り返っています。

北野:経済って正直、あまり肌触りがないじゃないですか。教育のほうが自分に合っていたのは、やはりそこに肌触りがあったからですか?

中室:そう思います。この仕事をしていると、子どもたちとは一緒に給食を食べながら話をしたり、教職員やPTAの方たちとは懇親会で飲みに行ったり、ということもあります。そういう現場で聞こえる声から多くのヒントをもらって研究ができているんだなと感じます。

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文=神吉弘邦、北野唯我(4P) 写真=桑嶋 維

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