経済

2025.06.21 12:00

過去5年間の原油価格の大変動を振り返る 紛争やパンデミックが大きく影響

イスラエルの攻撃を受けたイランの首都テヘランにあるシャハラン石油貯蔵施設。2025年6月15日撮影(Stringer/Getty Images)

イランとイスラエルの緊張の高まり

最近の原油価格の高騰は、現在イランとイスラエルの間で激化している紛争によるものだ。イスラエルは13日、イランのエネルギー関連施設に対して一連の空爆を実施。昨年4月以降の対イラン攻撃で、エネルギー施設が標的となったのは初めてのことだった。これに対し、イランも報復攻撃を仕掛けており、両国間の衝突は最も深刻な段階へと発展している。

advertisement

市場は即座に反応した。ブレント原油先物は1バレル76.45ドル(約1万1200円)で取引を終了し、3.22ドル(約470円、4.4%)上昇。WTI原油は74.84ドル(約1万900円)で取引を終了し、3.07ドル(約450円、4.28%)上昇した。こうした情勢を背景に、イランとオマーンに挟まれたホルムズ海峡が封鎖される可能性への警戒感が強まっている。この海峡は、世界で海上輸送される石油の約3分の1が通る重要な航路で、1日約2100万バレルの石油が通過している。

この紛争がエネルギー市場にとって特に懸念される理由は、生産施設に直接的な影響が及ぶ点にある。イランの原油輸出は、ここ数日間でほぼ完全に停止したもようだ。

原油価格が経済全体に及ぼす影響

原油価格の急騰はエネルギー部門にとどまらず、経済全体に広範な影響を及ぼす。

advertisement

インフレ圧力 原油価格の上昇は輸送費と生産コストを直接的に引き上げ、これが消費者物価に反映される。これによりインフレ圧力が生じ、中央銀行が金利を高い水準で維持せざるを得なくなり、経済成長の鈍化につながる。

個人消費 ガソリン価格の上昇は、消費者の可処分所得を実質的に減少させる。特に、収入の大きな割合をエネルギー支出に充てている低所得世帯にとっての影響は大きい。イランとイスラエルの紛争がイランのエネルギー施設に損害を与えると、原油価格が現在の1バレル約73ドル(約1万700円)から同120ドル(約1万7500円)前後にまで急騰する可能性がある。これに比例してガソリン価格も上昇する。

事業投資 将来のエネルギー価格に関する不確実性は、特にエネルギー集約型産業で、企業の投資決定を遅らせる可能性がある。エネルギー価格が変動した場合、企業は拡張計画や資本投資を延期することもある。

貿易の均衡 原油輸入国は価格が上昇すると貿易収支が悪化するが、原油輸出国は収入の増加により恩恵を受ける。この世界的な富の再分配は、通貨の価値や国際的な資本の流れに影響を与えることがある。

今後の見通し

原油価格の動向とその経済的影響は、依然として極めて不透明な状況にある。イランは仲介者を通じ、ドナルド・トランプ米大統領にイスラエルに停戦を迫るよう働きかけることを要請した。これにより緊張が緩和され、現在の原油価格のリスクプレミアムが軽減される可能性もある。

過去5年間にわたり、原油価格の変動が世界経済の安定にとって依然として重要な要因であることが示された。新型コロナウイルスのパンデミック時の前例のないマイナス価格から、ウクライナ侵攻に伴う記録的な高値、そして現在のイラン・イスラエル紛争に至るまで、石油市場は引き続き世界の安定の指標であり、経済成長を左右する重要な要因となっている。

政策立案者や企業にとっての教訓は明らかだ。原油価格の変動は単なるエネルギー市場の現象ではなく、慎重な監視と戦略的計画を必要とする根本的な力だということだ。地政学的緊張が続き、サプライチェーン(供給網)が混乱に対して脆弱(ぜいじゃく)な状態が続く中、原油価格と経済成長の関係は、今後も世界経済を形作る最も重要な要因の1つであり続けるだろう。相互に関連した世界の中で、現在の中東危機は、地域紛争が瞬く間に世界経済に影響を及ぼし、石油市場が世界経済にショックを与える仕組みを改めて思い起こさせるものだ。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

タグ:

連載

Updates:ウクライナ情勢

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事