日本のプレゼンスを示す場として注目を集めたのが、JETRO主導の「JAPAN Village」だ。東京都主催のSusHi TECH Tokyoをはじめ、京都市、仙台市、愛知県といった自治体がスタートアップを伴って出展し、日本の地域多様性と国際展開への意欲を印象づけた。
JETROが推薦するスタートアップ20社も展示していたのだが、その中で、ロサンゼルスに本社を構えるNeuralXの創業者・仲田真輝氏(UCLA博士課程修了)に、スタートアップとしてVivaTechに参加した感想を聞いた。人工生命技術を応用し、養殖業界に革新をもたらす同社は、欧州市場への本格進出を見据え、今回初めてVivaTechに出展。仲田氏によれば、環境・気候・サステナビリティに強い関心を持つ多国籍の投資家やコンサルタントと実りある対話を重ねることができたという。

NeuralXは、日本のみならず台湾やスイスのブースでも登壇を果たし、その技術が国際的な注目を集めていることを実感したと語る。CESをはじめとする米国の展示会にも多数出展してきた仲田氏は、VivaTechについて「LVMHやロレアルなど欧州大手企業の存在感が際立つ一方で、アメリカ勢は比較的控えめ。より多国籍で多様な国が集まる、国際色豊かな展示会だった」と評した。欧州市場においても、NeuralXの人工生命技術を応用した養殖ソリューションが、環境保全と食糧安全保障の観点からますます重要になると確信を深めたと教えてくれた。
今回のVivaTechを通じてあらためて実感したのは、AIというテクノロジーが国ごとの文化や価値観を前提としながら展開されていく未来である。たしかに、AIの活用はグローバルなテーマであり、産業や社会の構造そのものを塗り替える可能性を秘めている。しかし同時に、その導入や運用のあり方は、各国が大切にしている「人の働き方」「文化の守り方」「社会のあり方」によって大きく異なるのだ。
フランス発のAIスタートアップMistralのアルチュール・マンシュ氏が語った次の言葉は、その本質を見事に言い当てている──。
「ヨーロッパが独自のAIを開発すべき理由は3つあります。1つ目は文化的な理由。生成AIは思考のあり方を形成するため、それを自分たちでコントロールし、カスタマイズする必要がある。2つ目は戦略的な理由。重要インフラで使うシステムの鍵を、外国勢力に握らせるべきではない。防衛、エネルギー、行政サービス、すべてにおいて極めて重要です。そして3つ目は、ヨーロッパ各国が連携すれば、自前のテックエコシステムとリーダーたちを活用し、欧州発のチャンピオンを生み出せるという点です」
今回のVivaTechでは、この思想を体現する存在としてMistralの存在感も際立っていた。NVIDIAとの連携をはじめ、欧州発のAIスタートアップとしての飛躍が今まさに加速している。
AIの適用は不可逆な流れだが、それをどう活かすかは、その土地に根ざす価値観とともに選ばれるべきである。グローバルで起きているAIによる産業や社会の変化を目の当たりにしながら、日本として何を大切にすべきかを見つめ直す──。VivaTechは、まさにその問いに向き合うための貴重な機会となった。




