L’Oréal(ロレアル)のブースも注目を集めていた。なかでも展示されていた「noli.com」は、世界初のパーソナライズド・コスメ専用ECサイトだ。ユーザーの肌質やライフスタイル、予算に応じて、異なるブランドを横断して最適なスキンケア商品を提案してくれる。たとえば、化粧水はAブランド、保湿クリームはBブランドといった具合に、AIがユーザーに最適な組み合わせを導き出す仕組みである。

こうしたパーソナライゼーションの取り組みは、noli.comにとどまらない。ロレアルグループ全体として、AIを活用した体験設計を加速させているのだ。実際、日本でもおなじみのブランドにおいても、先進的な実装例がいくつか紹介されていた。たとえば、Lancôme(ランコム)は肌の老化をリアルタイム診断するAI搭載デバイス「Cell BioPrint」を、La Roche-Posay(ラ ロッシュ ポゼ)はAI肌診断とメンタルコーチングを組み合わせた「Spotscan+Coach」を、YSL Beauty(イヴ・サンローラン・ボーテ)はトレンドに即したメイク体験を提供する「Hyper Look Studio」を披露。それぞれに共通しているのは、「個」に最適化された体験をAIで実現するというビジョンだ。
これらの施策は、CES 2024でロレアルのニコラ・イエロニムス(Nicolas Hieronimus)最高経営責任者(CEO)が語っていた生成AI戦略の実装例に他ならない。noli.comを起点に、フレグランス、肌診断、3Dスキャンといったテクノロジーを融合させながら、ロレアルは全ブランドで「一人ひとりに寄り添う美の体験」を目指している。そのスピード感と実装力こそが、VivaTechで示された“今、ここで起きている未来”を体現していた。


会場内のステージセッションでも、AIをいかに政策に落とし込むかをテーマに、各国代表が語り合う場面が見られた。たとえば「Startup Genome」によるセッション「Unveiling Startup Genome’s 2025 Global Startup Ecosystem Report(GSER 2025)」では、500万社超・350以上のエコシステムを分析したレポートをもとに、日本・インド・イギリス・アメリカ(NY)の代表者たちが、それぞれの国家・地域が持つスタートアップ戦略や人材育成策を共有した。日本からは福本拓也氏(経済産業省・イノベーション政策 担当審議官)が登壇し、日本の複雑な産業構造や少子高齢化が実はAI実装のポテンシャル高い土壌になり得ると指摘し、大企業とスタートアップの連携を通じたAIネイティブ産業の形成と、DeepTechへの投資促進に向けた制度設計の重要性を強調した。



