AIの祭典とも言えるVIVA TECHの初日、最大の注目を集めたのは米NVIDIA(エヌビディア)創業者でCEOのジェンスン・フアン氏による基調講演だった。年始のラスベガスCES 2025でも会場を沸かせたが、ここでもその存在感は別格だった。彼が紹介したのは「生成AI」の次の章──AIが自律的に考え、動き、実際に物理空間で行動する「フィジカルAI」「エージェントAI」の世界だ。彼はディズニー・リサーチ、Google DeepMindと開発した小型二足歩行ロボット「Grek」をステージに登場させ、仮想空間での学習をリアルな環境に適用するプロトタイプとして披露した。
同時に、NVIDIAが推進する「AIファクトリー」構想も、VivaTechを通じて本格的に前進した。「AIファクトリー」とは、AIモデルという“知能”を生産するインフラを世界各地に築くという壮大なビジョンである。今回のイベント期間中、NVIDIAは世界初となる産業用AIクラウドの構築を発表し、欧州の製造業全体を高度化する取り組みを本格化する姿勢を見せた。シーメンスとの協業による、設計・製造工程のAI最適化やデジタルツインの活用なども合わせて発表された。
この構想の根幹にあるのが、「ソブリンAI(主権AI)」という考え方である。AIに必要な膨大なデータは、単なる数値ではなく文化・言語・価値観を含む「社会そのもの」でもある。そのため、どこで、誰が、どのようにAIを制御・活用するかは、国家戦略と深く結びついている。
フランスのマクロン大統領もフアン氏とステージに登壇し、「地域の文化や規制に根ざしたAIの育成」の重要性を強調。欧州ではいま、米中に依存しない独自のテクノロジー基盤の確立が急速に進められており、AIはその中心にある。
VIVA TECH で示されたNVIDIAのセッションは2025年1月に米国ラスベガスで開催されたCESにおけるNVIDIAの発表と鮮やかな対比をなしている。CESでは、最新のグラフィックスカード「RTX 50シリーズ」や生成AIを活用したゲーム技術、自動運転車向けのシミュレーションエンジンなど、より消費者や開発者に身近な技術革新が目立った。一方、VivaTechでは国家・産業規模のインフラ戦略、特に欧州における「主権AI」や「AIファクトリー」に焦点が当てられ、マクロン大統領をはじめとする政策レベルの関与も見られた。こうした違いは、AIが単なるツールではなく、国家や地域の社会構造を形づくる「社会的インフラ」へと進化していることを物語っている。


