息づくカウンターカルチャーの精神
実はドロップアウトしていた15歳のころ、地元の不良仲間たちが、のちの双子の人生を照らす唯一無二の「文化」を教えてくれた。それは、ヒップホップカルチャーだ。
「地元のラッパーが当時はやっていたのですが、のちにヒップホップの源流をさかのぼり、そこに流れるカウンターカルチャーの存在を知ったんです」(崇弥)
へき地の高校で卓球に明け暮れるふたりにとって、感情を爆発させる共通言語はヒップホップだけだった。社会的に抑圧された人々の声、反抗の象徴。権力への抵抗や、自らの物語を取り戻すための表現手法だ。ふたりは夢中になり、その源流はのちにヘラルボニーの理念へとつながる。
「マイノリティシーンからのカウンターカルチャー。やっていることはヒップホップに感動した15歳のマインドと同じです。社会に対し中指を立てていかないと」(崇弥)
文登も頷く。「兄をバカにされたことに怒ることも、立ち向かうことも、15歳の当時はできなかった。だからこそ、あのころの僕に今、伝えたい。『その違和感は、きっと未来をつくる種になる』と」
ヒッポップシーンでは自らが背負う地域やグループを主張したり自己表現したりする「レペゼン」という概念が重視される。ヘラルボニーの「レペゼン」は、言うまでもない。「岩手を本社にすることを、文登と会社をつくるときに決めました。ギャラリーも旗艦店もホテルも、1店舗目はすべて岩手」(崇弥)。「岩手は命の原風景であり、兄が生きてきた場所であり、まだ世界に知られていない『美しさ』が眠る場所。僕たちはここに旗を立て続ける」(文登)
ヘラルボニーは現在、国際芸術賞「HERALBONY Art Prize」を主催し、今年度は世界65の国・地域、1,320人のアーティストによる作品2,650点が集まった。グランプリや企業賞の受賞者とは作家契約を締結し、今後さまざまなライセンス起用で「異彩」を発信していく。さらに、世界最高峰のクリエイティブの祭典「カンヌライオンズ2025 Glass: The Lion for Change部門」の受賞候補にノミネートが確定。世界の潮流の中心に立っている。
15歳のころの自分は、今の自分をどう見る? そう尋ねると、ふたりは目を細めた。
「盛岡の百貨店のいちばん広い空間を、自社の旗艦店にしている。『かっけえな!』って思う気がする。今15歳の人たちにも、『俺も挑戦できるかも』って思ってもらえたら良いな」(崇弥)。「兄をバカにされたとき、僕自身の存在も否定されたように感じました。ただ間違いなく、あの出来事は僕に火をともした。この世界にはまだ届いていない声がある。偏見によって誰かの生き方が押しつぶされる社会を変えたい」(文登)
自分を変える、なりたい夢がある。そんな人はドラスティックにかじを切っても無謀ではない。彼らの歩んだ軌跡がいま、それを証明している。
まつだ・たかや◎クリエイティブを統括する双子の弟。小山薫堂が率いる、企画会社オレンジ・アンド・パートナーズのプランナーを経て独立。(写真右)
まつだ・ふみと◎営業を統括し、岩手を拠点に活動する双子の兄。岩手のゼネコン会社で被災地の再建に従事したのち、崇弥と共にへラルボニーを設立。(同左)


