10年前の「転機」と長年の苦闘
2015年に初めてエンタメ業界を志した頃の彼は、今とは程遠い状況だった。ニューヨークのエジプト系とアフガニスタン系移民の家庭に育ったワヒードは、クイーンズとロングアイランドで育ち、サザン・メソジスト大学に進学してアメフトチームでディフェンスバックとして活躍した。そして卒業後、将来の方向性が見えずにいた時に、姉に言われた一言が転機となった。「あなたは昔から面白かった。だから、演技をやってみたら」
そしてロサンゼルスに向かったが、成果はゼロだった。オーディションはほとんど受けられず、エージェントもつかず、仕事もなかった。ノースハリウッドの小さなアパートを6人でシェアして、オフィスのアシスタントや駐車場の係員として働いた(その当時の赤いベストは今も持っている)。その後、苦し紛れに始めたのが動画の投稿だった。「誰か監督が見て、映画に出してくれるかもしれない」と思ったのだった。
ワヒードは、数カ月をかけて動画を撮影しながら、脚本の書き方や撮影、編集、演技について独学で学んだ。しかし、結果は散々で、ニューヨークに戻って普通の仕事に就くことを決意した。ただし飛行機代を稼ぐまでに1カ月かかるため、それまでの間にさらに動画を投稿した。すると、彼のガールフレンドが化粧をしながら無謀運転をするという内容のコメディ動画が大ヒットとなり、一晩で40万回再生された。これでワヒードは勢いづいた。
「ようやく人々を楽しませることができて、100回でも同じことをやってやろうと思った」と語る彼は、数カ月後には50万人のフォロワーを持ち、数百万回の再生回数を稼ぐようになった。
しかし、それでもなおワヒードはお金が無かった。そんなとき、Tモバイルの広報チームからDMが届いた。1本の動画に2万ドルのオファーだった。彼が6000ドル(約90万円)を制作に投じた動画は、100万回以上も再生された。Tモバイルは1年間のパートナー契約を彼と結び、今もクライアントになっている。
そして今、短編コメディの王者となったワヒードは、長編作品にも挑戦しており、カナダでホラー・コメディ映画を撮影中だ。彼はまた、劇場公開を前提としないSNS向けの映画の制作も計画中だ。「500万ドル(約7億2400万円)の映画を作って、YouTubeで公開してはいけないというルールは無い。今から5年後には、YouTubeもインスタグラムTikTokも、もっと格式あるプラットフォームになっているはずだ」と彼は語る。
ワヒードはまた、劇場でのスタンドアップコメディにも挑戦しており、昨年はサンフランシスコのチェイスアリーナで行われた大物コメディアンのジョー・コイの公演で前座を務めた。「もしも、僕の動画が1万1000回しか再生されなかったとしたら、引退を考えるだろう。でも、実際に1万1000人の観客の前に立つというのは、ジョークじゃすまないことなんだ」と彼は語った。


