食&酒

2025.06.21 12:30

過激な劇場型レストラン 「アルケミスト」のシェフの頭の中

「アルケミスト」のラスムス・ムンクシェフ

最近は、子ども病院の食事の研究も始めた。コペンハーゲンには、2027年に完成予定で「世界一の子ども病院」を目指すメリー・エリザベス病院が建設中だ。公立病院のため入院は無料で、患者は重篤ながんなどにかかった子どもとなる。

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その子どもたちが「薬の副作用などで食欲がなくなってしまうことが多く、唯一食べられるのはアイスクリーム」と聞いたムンク氏は、おいしく栄養価の高いアイスクリームを生み出し、病気の回復を早めることを目指す。

広く明るい雰囲気のメリー・エリザベス病院のモデルルーム。
広く明るい雰囲気のメリー・エリザベス病院のモデルルーム。

また、付き添いの親は子どものベッドの端に腰掛けて手早く食事を済ませるのが精一杯だったが、この病室には親子で一緒に食事を囲むことができるテーブルを設置。長期の入院でバラバラになりがちな家族の絆を保つだけではく、団欒の幸せな時間が免疫を高める効果も期待されている。

現在ムンク氏が関わっているのは子ども向けのスイーツのみだが、将来的には、親子のための栄養価が高くおいしい食事も考案したいと考えている。

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この日は野菜を切るのを手伝っていたメノワーさん(左)
この日は野菜を切るのを手伝っていたメノワーさん(左)

スポラ外で行う社会的な活動もある。その一つが、薬物中毒者や路上生活者に1日約300〜400食の食事を提供する「ジャンクフード」だ。2020年3月、コロナ禍にいち早くスタートしたプロジェクトだが、提供を受けていた人のなかから、ボランティアとして働く人も出てきている。

その一人が、両親が中東からの移民のマスジッド・メノワーさん、46歳。厳しい両親に反発して13歳でハシシに手を出し、3年前まではずっと、薬物なしでは過ごせなかったという。

今では薬物とは手を切り、遠方に住む、支援が必要な人たちへの配達を任されているメノワーさんは、「頼りにされ、日々必要とされている喜びを感じる」と話していた。こういった食を通して社会を変革する意味のある活動が、ムンク氏の原動力となっている。

コロナ禍以降特に、ラグジュアリーの価値には、地球や人、サステナブルへの配慮が加わっている。ムンクシェフは、1991年生まれで、社会的・環境的責任を重んじると言われるミレニアル世代に属する。ただ消費をするのではなく、社会的な貢献やメッセージを伝えるなど、「意味」を求めるラグジュアリーという考え方は、これからますます盛んになってくるのかもしれない。

文・写真=仲山今日子

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