食&酒

2025.06.21 12:30

過激な劇場型レストラン 「アルケミスト」のシェフの頭の中

「アルケミスト」のラスムス・ムンクシェフ

ムンク氏が「メッセージ性のある」料理を生み出すようになった原点は、20代前半に遡る。若くして高級ホテルのメインダイニングのシェフを任され、その技術の高さとおいしさから注目を集め、店は地元ガイドでデンマークのベストレストランに選ばれた。

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ある年のクリスマスに、恵まれない家庭の子どもたちに料理をつくることがあり、それをきっかけに、ごくわずかな富裕層を喜ばせる料理だけではなく、料理を通してもっとメッセージを発信し「社会にとって意味のあることをしたい」と考えるようになった。

2015年にホテルを辞め、オーナーシェフとして15席だけの「アルケミスト」をオープン。臓器提供への関心を提起するため料理として、子羊の心臓を使ったタルタルに、本物の輸血袋に入れたチェリーソースを合わせ、臓器提供同意カードを添えて提供するなどして一躍話題に。それを見た投資家からの出資を得てオープンしたのが、壮大なスケールの体験を生み出す、現在のアルケミストだ。

海中のマイクロプラスティックの問題を訴えかける料理
海中のマイクロプラスティックの問題を訴えかける料理

おいしいのは当然として、より広く社会に訴えかけるためには食の世界に閉じず、アートや演劇を愛する人にも届くようにと、メッセージを印象付けるためにテーマに関連した映像がドーム型の天井に映し出される。

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例えば、「監視社会に対する警鐘」では、目玉を模った器に盛られた料理が提供されると、天井のスクリーンでは不気味な音とともに、大量の目玉が降ってくる映像が流れる。サービススタッフは100ページにも及ぶ「台本」を覚えて料理の背景にあるメッセージを、ゲストとの会話の中で説明し、味覚だけではない感性を活性化させる。

ラボで研究・開発・共有

さらに「Spora(スポラ)」というラボで、研究者とともに五感に訴えかける食体験を探求。その内容は、定期的に行われる食のイベントで共有される。イベントを通じて同時多発的に業界を底上げし、進化させるというのは、25年ほど前にスペインで始まったスタイルとなる。

世界各国から約150人のシェフやジャーナリストなどが集まった (Photo by Spora)
世界各国から約150人のシェフやジャーナリストなどが集まった (Photo by Spora)

スポラで取り組んでいることの一つが、宇宙での食体験だ。「もし、地球環境がこのまま破壊されてしまうと、将来的には人は宇宙に移住しなくてはいけなくなるかもしれない」という考えのもと、米国スペース・パースペクティブ社と共同で、2026年をめどに、宇宙空間での食体験の提供を始める予定だ。

ほかにも、サステナブルな観点から、菜種油を絞りかすを発酵させて作る代替肉の開発、カカオを使わずビールの絞りかすから“児童労働の心配のないチョコレート”の開発なども行う。

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文・写真=仲山今日子

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