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2025.06.18 11:30

「オーディオ製品」の価値定義を(静かに)変えるアップル

アップルのオーディオラボにある無響室

アップルのオーディオラボにある無響室

アップルが開発者向けイベント「WWDC 2025」を開催したが、この基調講演でちょっとした「小さな」発表があった。同社のワイヤレスイヤホン「AirPods」シリーズのマイクを通じて、スタジオ品質のクリアな音声を実現したというアナウンスだ。

AirPodsに内蔵されているマイクは、周囲の雑音を取り除く能力こそ高いものの、音質面では決してすばらしいとはいえないものだったが、晩秋までに提供される新しいソフトウェアでは、これがユーザー投稿動画などでの屋外収録やインタビュー企画などで十分に使えるレベルになる。

もっとも基調講演でマイク音質に触れられたというだけで、実際にはもっと多くの改良が加えられている。

充電が必要な状況を判別して状況を知らせ、ジェスチャーでノイズキャンセリングの効果を一時的に切り替え可能になり、ユーザーの睡眠を検出すると一時停止に。iPhoneやiPadのカメラリモコンにもなる。

WWDCで最新のAirPodsなどにスタジオ品質の音声録音機能とカメラリモート機能が搭載されることが発表された(Apple)
WWDCで最新のAirPodsなどにスタジオ品質の音声録音機能とカメラリモート機能が搭載されることが発表された(Apple)

現在、ベータ版のこのソフトウェアは開発者向けバージョンがテスト中だが、実際に収録に十分な品質を実現できるなら、同種の製品としては初となる。

多数のアップデートを含むこの発表を「小さな」と表現したのは、今回の取り組みはアップルがオーディオジャンルで取り組んでいるテーマのごく一部に過ぎないからだ。彼らはオーディオ技術に対して、その価値を一般消費者が考える範囲よりもはるかに幅広く捉えて、同社が提供する全プラットフォームの製品体験に反映させている。

アップルにとってのオーディオとは

さて、筆者がWWDC 2025の取材でアップル本社を訪問した際、本社ビル近くにあるオーディオラボを訪問することができた。

本格的な無響室や音質チューニングのスタジオなど、さまざまな部屋を備えた施設だが、アップルは同種のラボをおよそ50カ所に持っているというのだから驚く。

迎えてくれたのは、オーディオ製品の音質チューニングや製品に組み込む特定のソフトウェアを開発しているエンジニアなど、実に多彩なメンバーたちだ。

彼らと交流する中で気づいたのは、アップルが「音質改良」というオーディオ製品としては王道の付加価値向上に取り組んでいるだけではなく、製品の機能や体験の質、あるいはライフスタイルそのものを変えていく戦略的要素として研究開発に取り組んでいることだ。

オーディオに関する研究開発は、音楽とオーディオを愛したスティーブ・ジョブズによって拡大された。彼はラボに自ら愛用していたマーティン・ローガンの静電容量型スピーカーを寄付した。

オーディオラボにはスティーブ・ジョブズがマーティン・ローガンの静電容量型スピーカーが置かれていた
オーディオラボにはスティーブ・ジョブズがマーティン・ローガンの静電容量型スピーカーが置かれていた

しかし、これは高級オーディオのように高品質な音響体験を特定の誰かに向けて販売することを目指してのものではく、幅広くあらゆるデバイスのユーザーに届けるというアプローチだ。

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編集=安井克至

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