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2025.06.18 11:30

「オーディオ製品」の価値定義を(静かに)変えるアップル

アップルのオーディオラボにある無響室

アップルが使っているのはマルチバンド(複数の周波数帯に分割した音質調整)の音響処理を、機械学習で適応的に行うというものだ。音質のチューナーが行う調整をさまざまな音楽ソースやシチュエーションで繰り返すことで、機械学習による補正精度を高めていく。

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これにより、さまざまな(そして製品ごと異なる)制約の中で、質の揃ったオーディオ機能に収斂させることができる。

この作業は常にラボで継続されており、時に機械学習のモデルも更新されるため、ハードウェアはそのままであるにもかかわらず、ファームウェアアップデートで音質が向上することも少なからずある。

顕著だったのは、第二世代HomePod発売時の第一世代HomePod。この際には第二世代向けに開発された新しい音響モデルが第一世代にも導入された。ここまで大幅なアップデートは少ないが、それでも常に機械学習モデルやデータの更新は行われ、改善が続けられている。

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球体のフレームに50個のスピーカーを配置し、世界中の様々な場所の環境音を再現できるようにした評価室。アップルは世界中の様々な場所や多様な環境で64個のマイクを使って収録した環境音をここで再生し、あらゆる場所における機械学習を行えるようにしている
球体のフレームに50個のスピーカーを配置し、世界中の様々な場所の環境音を再現できるようにした評価室。アップルは世界中の様々な場所や多様な環境で64個のマイクを使って収録した環境音をここで再生し、あらゆる場所における機械学習を行えるようにしている

個人にパーソナライズするオーディオ体験

Tシャツとジーンズのように着飾らない、しかし実用性の高いオーディオが彼らのオーディオだと感じるが、一方でその背景では大きな投資も行われている。中でももっとも力が入っているのが空間オーディオ技術だ。

イヤホンやヘッドフォンでの立体音響の再現は、無響室で行われる頭部伝達関数の測定をベースに行われる。もっとも、こうした同様の測定ベースでのモデル化は一般的な技術だ。

一般的に、この測定はダミーヘッドと呼ばれる人間の頭部を模した装置を用いて行われるが、頭の大きさや耳の形状には個人差がある。そこでアップルは、無響室にダミーヘッドではなく人間の被験者に入ってもらい、個々の耳の音響測定を行っている。また同社は数千人の被験者データを収集し、さらにiPhoneに内蔵されているTrueDepthカメラを用いた耳形状スキャンデータを組み合わせて機械学習をさせている。

同様の個人差を計測する取り組みはソニーなども行っているが、アップルがユニークなのは、個人が所有するiPhoneに内蔵するTrueDepthカメラで個人カスタマイズを行えるようにしていることだ。この形状スキャンと音響特性の個人差を計測した機械学習モデルも、常に更新が続けられている。こうしたことが、同社が提供している空間オーディオの再現性を高めていることは間違いない。

この技術の適応範囲も少しづつ広げている。

空間オーディオで配信されるApple Music音楽や各種立体音響の映像作品を楽しむところから始まった空間オーディオ技術の応用だが、一般的なステレオ音声を頭内定位ではなく、より自然な音場空間で楽しむためのオプションも加えられている。

イヤホン、ヘッドホンに加え、頭とスピーカーの位置関係が想定しやすいノート型パソコンでは、仮想音源(仮想スピーカー)の位置を自由に設定できりようになるため、理想的なオーディオ体験を提供しやすいという利点もある。

次ページ > テック製品を使う「日常」を支えるオーディオ技術

編集=安井克至

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