時にAirPodsシリーズを、音質キャラクターや品質の追求で知られるブランドと比較する例を見るが、彼らは特徴ある音作りをそもそも目指していない。
一方で各プラットフォームごと制約がある中で、音楽、映画、音声通話などさまざまな中でのオーディオ体験に一貫性をもたらそうとしている。AirPodsシリーズだけではなく、iPhone、iPad、Macなど、さまざまなジャンルでの音質、特に立体音響の再現性がここ数年で高まったことに気づいている人は多いはずだ。
そしてそのオーディオ開発への取り組みは、内蔵マイクにも向かってきた。Macのマイク品質の高さに、ビデオ会議などのシーンで気づいている人も多いのではないだろうか。今回のスタジオ品質のマイク録音機能も、最初に搭載されたのはiPhone 16世代における動画録音に対する「Audio Mix」という技術を応用したものだが、当然ながら重要なのは「本当にスタジオマイクと比べて、どこまでの究極的な品質があるか」ではない。
誰もが日常的に使う道具を使った時、特に意識しなくとも品質の高いマイクで聞き取りやすい声を録音できる。日常の中に溶け込んだ、包括的な高品位オーディオをすべてのアップル製品に組み込もうとしているわけだ。
制約を超えるコンピュテーショナルオーディオ
伝統的なオーディオの世界観では、スピーカーの口径やアンプの出力といった物理的スペックが音質を決定する主要因となってきた。そうした物理的な基盤の上に、マイスターによる音のチューニングにより魅力を引き出していた。
実はアップルもグラミー賞を受賞するような音響エンジニアを多数抱え、音質マイスター(彼らはチューナーと呼んでいる)による最終的なチューニングを行なっているが、問題解決のアプローチはまったく違う。

アップルは計算音響学と機械学習を駆使することで、物理的制約の中で優れた音響体験を実現しようとしている。アップルの主要製品はスマートフォン、タブレット、パソコンといったジャンルで、それらに物量を投入したオーディオシステムを内蔵させることはナンセンスだ。
MacBook Airは薄型の筐体である上、音が出てくるポートすら見えない。iPhoneやApple Watchのサイズや形状はいうまでもない。アップルはApple Watchを除くすべての製品で、質の高い空間オーディオや高いマイク品質を実現している。また、そんなApple Watchは空間オーディオこそ再現できないが、iPhoneと連携しての通話品質には驚かされるものがある。

