企業を買うM&Aという手法が、活況を見せている。しかし、その買い方は本当に企業や従業員、ステークホルダーにとって正解なのか。日本経済全体の「ロールアップ」になるための「賢い買い方」実例集を2025年5月23日発売のForbes JAPAN7月号でお届けする。
「スマートバイヤー」とは、M&A用語の「ストロングバイヤー」に模した我々の造語だ。ストロングバイヤーは買収意欲が高く、売却案件が集中する会社のことだが、「スマート」と称した理由は、合併後の戦略やビジョンなど、そのシナリオと中身に注目したいと考えたからだ。文字通りレバレッジを効かせる「賢い」戦略をもっていると編集部が判断したものを集めてみた。
リスト作成にあたっては、官公庁、金融機関、投資家、起業家、M&A業務を行う仲介会社、コンサル会社などに取材し、選出した。業界再編を目指す者、地域経済の底上げ、あるいは何かの目標に向かってコングロマリットを形成する者など、いずれも公共性が高いのが「スマートバイヤー」の特徴である。
このシリーズの第三弾は、関東エリアである。NOVAホールディングス(東京都)は、FC網の買収で拡大するドミナント型の戦略から事業領域の拡大へ進化してきた。企業価値を見出し、従業員を尊重する再生型の取り組みで成長する。
手がけたM&Aは100社 NOVA再生の強運レバレッジ

「駅前留学」のキャッチコピーで知られる日本最大級の英会話スクールチェーンNOVA。かつては全国に1000校以上存在していたが、2007年に経営破綻。そのとき事業譲渡を受けたのが、稲吉正樹が率いるジー・コミュニケーションだった。
学習塾を祖業とし飲食事業も展開する同社は、当時、半年に1件のペースでM&Aを進め売上高300億円へと拡大していた頃だった。
現在、学習塾・英会話などを中心に、7事業、26社を展開する稲吉は売上高690億円に迫るNOVAホールディングスの代表だ。1994年に稲吉がアパートの一室で開いた学習塾から始まったその歴史は、M&Aと共につくられてきた。