経済・社会

2025.06.17 11:45

イスラエルに見くびられたトランプ米政権

2025年6月14日、ワシントンDCのナショナル・モールで行われた陸軍生誕250周年記念式典で、ドナルド・トランプ大統領は立ち上がり、軍隊に敬礼した(Photo by Doug Mills - Pool/Getty Images)

2025年6月14日、ワシントンDCのナショナル・モールで行われた陸軍生誕250周年記念式典で、ドナルド・トランプ大統領は立ち上がり、軍隊に敬礼した(Photo by Doug Mills - Pool/Getty Images)

イスラエルが誇る対外諜報機関「モサド」。情報収集能力はもちろん、暗殺や破壊などの工作にも秀でた能力を誇る。イスラエルの駐在経験がある日本の元外交官は「モサドは周辺の敵対国の情報を収集している。イスラエルはその情報を基に、レッドラインを超えそうだと判断すると破壊や暗殺、戦争をしかけてきた」と語る。

イスラエルは1981年6月、イラクが建設中だった原子力発電所を爆撃、2007年9月にはシリアが北朝鮮の協力を得て建設中だった原子炉を空爆し、それぞれ破壊した。イランの核関連施設に対しても、00年代後半にイスラエルと米国の関与が疑われているサイバー攻撃が行われた。イスラエルは20年と21年にも、イランの核関連施設への爆破工作を実施している。元外交官は「今回もイランの核開発が、イスラエルの許容範囲を超えそうだという判断があったのだろう」と指摘する。イランの弾道ミサイルやドローン(無人機)攻撃に対しても、十分防衛できるという計算も働いていたようだ。

一方、イランに駐在した経験がある日本政府の元高官は「イスラエルは今回こそ、攻撃の絶好機だと考えただろう」と語る。イスラエルによる攻撃によってイランと連帯してきたイスラム組織のハマスやヒズボラは壊滅状態にある。ロシアの中東地域への影響力の低下で、やはりイランと協力関係にあったシリアのアサド政権も崩壊した。中東地域でイスラエルとイランを除いて唯一の軍事大国とも言えるサウジアラビアは5月のトランプ米大統領の訪問の際、様々な経済協力で合意したばかり。米国と同盟関係を結ぶイスラエルに牙をむくことは考えにくい。

そして、イラン駐在経験のある元外交官は「中でも、イスラエルにとって一番判断が簡単だったのが、トランプ政権の出方だっただろう」と指摘する。国内外で粗雑で乱暴な政治を繰り広げるトランプ政権は大きな反発を買っている。米国メディアによれば、トランプ政権は同氏の79歳の誕生日にあたる14日、首都ワシントンで陸軍創設250周年を記念する軍事パレードを実施。全米各地では政権に抗議するデモが相次ぎ、約500万人が参加したという。前出の元外交官は「大揺れのトランプ政権が支持基盤の一つのユダヤロビーを切れるわけがない。いくらトランプが戦争嫌いだと言っても、イラン攻撃に踏み切ろうとするイスラエルを止められるはずがなかった」と話す。

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文=牧野愛博

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