イランの通常戦力の現状は
イランの地下核施設を狙うのが難しいとみられるのに比べ、イスラエルが航空戦力面でイランに対する優位性を拡大するというのははるかに現実的だ。イスラエルはF-35Iステルス戦闘機や改良型F-15、F-16両戦闘機、偵察機などを含む格段に近代的な空軍力を擁し、目標をより精密に攻撃する能力を持つ。
それに対してイランの空軍力は、旧式のまま放置されてきた。イランは米国製のF-4、F-5や旧ソ連時代のMiG-29を含む300機超の戦闘機を保有するとされるものの、どれも数十年前に購入された機体だ。とりわけイランの防空網は脆弱で、イスラエルによる今回の攻撃ではほとんど抵抗もなく突破された。イランはイスラエル空軍のF-16戦闘機に首都テヘランから80km以内への侵入を許し、首都防衛のために展開させることができたのはMiG-29わずか1機だけだった。イランが空軍の近代化の代わりに優先してきたのが、ミサイルの備蓄だった。
実際、イランによるイスラエルに対する過去の攻撃では、弾道ミサイルが最も有効な手段となってきた。イスラエルまで到達させるには射程1000km以上の準中距離弾道ミサイル(MRBM)が必要で、イランは北朝鮮との協力も経て、こうした弾道ミサイルを数種類保有している。
米当局の推定によれば、イランは中東で最大規模の弾道ミサイル備蓄を誇るとされ、その数は3000発超に達するともみられていた。イランは巡航ミサイルも保有しているが、数は不明だ。イランの弾道ミサイルには射程2000km、最高速度マッハ14とされる「セジル」などがあり、セジルは2024年10月、ヒズボラがイスラエルに対して行った攻撃で使用されたと報じられている。イランは高精度で機動性の高い極超音速ミサイル「ファタフ」も開発したと主張しており、これはセジルなどよりさらに高速なので、迎撃はより困難になる。
しかし、これらのミサイルの多くはイスラエルによる13日の攻撃で損傷した。もともとこれらのミサイルのうち、イスラエルを攻撃するために1600km以上飛行できる準中距離弾道ミサイルは約3分の2にすぎず、発射可能なミサイルがどのくらいの数あるのかも定かでない。さらに言えば、イランは保有する弾道ミサイルを、すべてイスラエルに対する反撃に使うわけにはいかない。使い果たせば抑止力を失ってしまうからだ。ニューヨーク・タイムズ紙によるとイランは当初、ミサイル1000発で報復する計画だったが、実際に発射したのは約200発にとどまったという。


