事業継承

2025.06.17 10:45

会社を買って未来を変える 全国M&A「スマートバイヤー」30選(第二弾 甲信越編)

企業を買うM&Aという手法が、活況を見せている。しかし、その買い方は本当に企業や従業員、ステークホルダーにとって正解なのか。日本経済全体の「ロールアップ」になるための「賢い買い方」実例集をお届けする。

「スマートバイヤー」とは、M&A用語の「ストロングバイヤー」に模した我々の造語だ。ストロングバイヤーは買収意欲が高く、売却案件が集中する会社のことだが、「スマート」と称した理由は、合併後の戦略やビジョンなど、そのシナリオと中身に注目したいと考えたからだ。文字通りレバレッジを効かせる「賢い」戦略をもっていると編集部が判断したものを集めてみた。

リスト作成にあたっては、官公庁、金融機関、投資家、起業家、M&A業務を行う仲介会社、コンサル会社などに取材し、選出した。業界再編を目指す者、地域経済の底上げ、あるいは何かの目標に向かってコングロマリットを形成する者など、いずれも公共性が高いのが「スマートバイヤー」の特徴である。

このシリーズの第二弾は、甲信越エリアである。NSGグループ(新潟市)は、教育、医療福祉を事業の柱にし、グループの法人数が100を超える。コングロマリット戦略により、地域と事業の持続可能性を追求する。


学校からプロスポーツ支援まで 新潟1200億コングロマリットの効果

「簡単には買えない価値が、この街にはあるんです」

新潟市を本拠に事業を展開するコングロマリットであるNSGグループ代表、池田祥護は、そう切り出し、「まさにこのホテルがそうです」と語った。

NSGグループ代表、池田祥護
NSGグループ代表、池田祥護

NSG傘下の「ホテルイタリア軒」は、150年の歴史を持つ。新潟は、横浜などとともに明治維新期に開港した“開港5港”のひとつに数えられる。「ホテルイタリア軒」の前身は、イタリア人料理人が、明治初期に開いた日本初のレストラン。M&Aにより、2014年からNSGが運営を担っている。池田は言う。

「同じ額を投資したら、もっともうかる事業はほかにもある。でも、これだけの物語をもつホテルがなくなってしまっては、街として面白みや魅力が失われてしまう。同時に、日本初と言われるミートソースという“買えない価値”には、事業発展の可能性がある。いかに地域に貢献し、グループを拡大するか。そのふたつが合致したから、ホテル事業を譲り受けたのです」

今や、教育、医療福祉、不動産、スポーツなどに関する101の法人で構成され、売り上げ約1200億円、従業員数1万3000人を超えるNSGだが、原点は池田の生家である古町愛宕神社。会長をつとめる父の弘が、1976年に境内の一角に校舎を建て、教育事業をスタートさせた。

池田の代表就任は、2020年4月。新潟市の人口は05年に81万人だったが、現在は76万人。コロナ禍が、衰退に拍車をかけた。生まれ育った街をどうすべきか……。池田の問いは、原点に帰結する。

「地域を維持し、活性化させるためには、経済活動が不可欠です。そのためにも学ぶ場の拡充や、医療福祉の充実が大切になってくる。つまり父が育てた事業を通じ、地域の将来性を見いだすことが、この街に土着し、成長したグループを引き継いだ私の役割なのではないか、と」

グループの柱が、教育、医療福祉の2つの事業。そのなかでも、大黒柱が、創業の教育事業だ。事業創造大学院大学や、新潟医療福祉大学など4つの大学と大学院、開志学園高校などの3つの高等学校に加え、ビジネスやスポーツ、医療福祉、観光、農業、工業、美容、デザイン、アニメなど幅広い分野の専門学校は34校に及ぶ。

「教育に関して、なぜこれほどバラエティに富んだ事業戦略をとってきたか」と池田は自問するかのように続けた。

「経営の効率化を考えれば、ビジネスやコンピュータに特化した学部や学校ばかりにするのが正解かもしれません。ただ、ほかの職業を目指す地元の若者はどうなるのか。様々なプロフェッショナルを目指せる環境づくりによって、若者が地元に残るだけではなく、新潟に足を運ぶ人も増えるはず。さらには、新潟で学んだ若者に、グループ内で専門知識や技術を生かしてもらう。人材育成によって、地域の未来や、組織のあり方は変えられる。大切なのは、人なんです」

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山川 徹、フォーブスジャパン編集部 = 文 ヤン・ブース = 写真 アンドリュー・ジョイス=イラストレーション

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