経営・戦略

2025.06.14 11:00

米メタが2兆円出資でAI新興のCEO獲得、業界の注目は「超知性ラボ」以外の波紋

スケールAIの共同創業者でCEOのアレキサンダー・ワン(Photo by Drew Angerer/Getty Images)

ザッカーバーグの新たな野望の行方

28歳の若さで推定36億ドル(約5184億円)の資産を保有するスケールAI創業者のワンは、メタの新設AIラボに責任者として就任予定とされる。このラボは人間の能力を超える「スーパーインテリジェンス」システムの開発に取り組むと、ニュースサイトThe Informationは報じた

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このチームの編成にあたり、マーク・ザッカーバーグはスケールAIやOpenAI、Anthropic、Google DeepMindの研究者を年俸1000万ドル(約14億4000万円)超で引き抜こうとしているという。ザッカーバーグはこのプロジェクトに深く関与しており、ワッツアップに「Recruiting Party(採用パーティ)」というグループを作って自ら勧誘を行い、研究者の席を自分の近くに移すといった異例の対応をブルームバーグが報じた。

この取引はまだ完了しておらず、規制当局によって阻止される可能性もある。もし成立すれば、ワン、またアクセルやインデックスベンチャーズといった初期投資家には大きな利益となるが、スケールAIがその後どうなるかは不透明だ。「創業者のワンと初期投資家には素晴らしい話だが、現従業員や元従業員を含む他のすべての人々にとってはひどい話だ。この取引がスケールAIにどのような利益をもたらすのかは不明だ」と、スケールAI元幹部は語った。

ここ数年、世界のハイテク大手はAIの覇権を巡ってしのぎを削ってきた。2013年に初めてAIラボを立ち上げたメタは、オープンソースのLlamaモデルでこの競争に乗り込んだが、グーグルやOpenAI、Anthropicに遅れをとってきた。同社AIの評判は、Llama 4モデルのベンチマークスコアを人為的に操作したと4月に報じられたことでさらに悪化した(メタはこの主張を否定した)。ワンのような存在感のある人材の採用は、メタのAIプロジェクトの起爆剤となる可能性がある。

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ザッカーバーグは、メタの取り組みを防衛関連にも広げようとしており、スケールAIの政府向け部門はそうした取り組みとも合致する可能性がある(ただしフォーブスが以前報じた通り、スケールAIのこの分野であまり成果を上げていない)。

AI大手による「CEOごと買収」というトレンド

今回の件は、AI大手が絡むAIスタートアップのCEOの引き抜きに関する最新例だ。昨年マイクロソフトは、DeepMind創業者のムスタファ・スレイマンと、スレイマンが2022年に設立したAIラボInflectionの幹部チームを引き抜き、同社を「抜け殻」のようにした。その数カ月後、アマゾンはAdept(アデプト)と技術ライセンス契約を結び、デービッド・ルアンCEOと創業チームを雇用した。グーグルも、生成AIの基盤であるトランスフォーマー・アーキテクチャを開発した研究者のノーム・シャジールを、彼が創業したCharacter.AI(キャラクターAI)から呼び戻すという類似した動きに出ていた。

AIモデルの進化と高度な専門性

Invisibleのマット・フィッツジェラルドCEOは、AIモデルが進化するにつれ、高度な専門性がますます求められるようになっていると指摘する。スケールAI、Turing、Invisibleはいずれも、低賃金のクリックワーク労働者を起用した業務から、博士号取得者や高学歴の専門家による洗練された業務にシフトしているという。

今回のメタとスケールAIとの取引は、AIの訓練における人間の労働の重要性を改めて示していると彼は語った。「これは10年越しの賭けだ。メタは、長期的に見てこの分野が極めて重要になると考えている」とフィッツジェラルドは語った。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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