トランプ政権が5月に発表した予算教書が、NASAと宇宙産業に混乱をもたらしている。NASAの2026年度予算を4分の3に削るというその予算案では、「SLS」ロケット、「オリオン」有人宇宙船、月軌道ステーション「ゲートウェイ」などの計画中止が議会に求められている。
5月31日にはトランプが、ジャレッド・アイザックマンのNASA長官指名を急遽撤回。これによって6月5日にはトランプとイーロン・マスクの罵倒合戦が勃発した。この争いはマスクの謝罪によって終息したが、その亀裂は今後、有人火星探査などに影響する可能性がある。
ただし、6月6日に上院議会から提出された予算調整法案によって、中止されようとしている計画が復活する可能性が出てきた。仕掛人は上院議員のテッド・クルーズ。商業委員会の議長を務める彼は、2016年に共和党の大統領候補指名でトランプと争った人物でもある。
NASA予算の大幅削減と時系列
この約1ヵ月間で起こった主な事案を並べると、以下のようになる(日付は米国時間)。
・5月2日 2026年度予算要求案(簡易版)発表
・5月22日 「大きくて美しい法案」が下院で可決
・5月30日 マスク氏のDOGE退任会見、2026年度予算要求案(詳細版)発表
・5月31日 トランプがアイザックマンのNASA長官指名を撤回
・6月5日 トランプとマスクの罵倒合戦が勃発
・6月6日 上院議会のテッド・クルーズが予算調整法案を発表
・6月11日 マスクがトランプに対する暴言を謝罪
2026年度予算要求案とは、大統領が議会に対し、新年度予算(10月1日~)に関して大まかな方針を示す提案書のこと。一般的に「予算教書」と呼ばれるこの予算案は、「簡易版」と「詳細版」の2回にわたって発表される。簡易版には予算全体ではなく、一部のトピックスしか掲載されていないことから「スキニー」(「痩せ細った」の意)とも呼ばれる。その後に提出される「詳細版」にはNASAの個別プロジェクトの予算が詳細に記されている。
これらで明らかになったのがNASA予算の大幅削減だ。その内容は、前年度予算である248億ドル(約3兆5700億円)を188億ドル(約2兆7070億円)に圧縮するというもの。これは各省庁のなかでもNOAA(米海洋大気庁)の25%減と並んで極端な数字だ。その結果、前述したSLSなどのほか、火星探査機「マーズ・オデッセイ」と「メイヴン」、木星探査機「ジュノー」、カイパーベルトを航行中の「ニューホライズンズ」、チャンドラX線観測衛星、フェルミガンマ線宇宙望遠鏡など、数多くの計画が中止されようとしている。



