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自社改革から世界へ−富士通×PwCが挑んだ7万人DXの軌跡

「OneERP+」プログラムの国内稼働を支えた3つの要素

――富士通の変革体制について多くの示唆をいただきました。ここからは、「OneERP+」プログラムの具体的な進捗と成果、今後の展望について伺います。まず、プロジェクトの進行状況をお聞かせください。

遠山興平(以下、遠山):2020年11月に正式に立ち上げた「OneERP+」は、全社の業務プロセスを標準化したうえで、「SAP S/4HANA」によるグローバルシングルインスタンスのERPを導入して移行するプロジェクトです。単なる業務改善やカスタマイズではなく、業務全体を再設計し、新しい環境に引っ越すという、現場にとっても非常にインパクトの大きいものでした。

この取り組みは「システムのデリバリー」「チェンジマネジメント」「カルチャーチェンジ」という3つの要素で構成されています。もともとは23年4月の稼働を目指していましたが、経営プロジェクトとして構想設計に1年半を費やしたため、結果として24年10月の稼働となりました。
私は、稼働前の24年4月にCDPO(Chief Data & Process Officer)としてプロジェクト責任者に就き、稼働前と稼働後の一年間、文字通り全力で奔走してきました。

まずデリバリー面では、稼働直前は作業集中をこなすため交代勤務をしつつ、品質を守るためのチェックを短いスパンで入れるなど、チームメンバーとともにハードな対応を行いました。

また、チェンジマネジメント面では、導入の半年前に実施した社内アンケートで回答率が2割、そのうち「『OneERP+』プロジェクトの目的や内容を理解している」と答えた人はわずか1、2割と危機的な状況が明らかになりました。これを受けて経営幹部参加のもとで決起会を実施し、私自身も北海道から九州まで全国の現場への行脚対話を通じて社員と直接向き合いました。最終的に延べ約5万人の社員にアプローチできたことで、理解が深まるとともにカルチャー変革が誘発され、組織全体に変革への自覚と当事者意識が芽生えたと感じています。

自社改革から世界へ−富士通×PwCが挑んだ7万人DXの軌跡

遠山興平 富士通執行役員常務 CDXO

――巨大企業ゆえ、実際に運用を始めてからのご苦労も多かったのではないでしょうか。

遠山:はい、これだけの規模のシステム運用がスタートするわけですから想定はしていましたが、特に最初の1カ月間はシステムもオペレーションも安定せず問い合わせが殺到しました。AIによる自動応答も後に導入したのですが、当初はすべて人力で対応していたためフォローが手薄になっていた部分はあったと思います。約3カ月で、ようやくオペレーションが安定してきました。

“本丸先行”でグローバル展開への先鞭を打つ

――なぜ「本丸」である日本から大規模な変革に着手されたのでしょうか。

遠山:日本企業では「まずは小さく始めて、うまくいったら全社展開」という考え方が一般的かと思いますが、私たちはそれではうまくいかないと考えました。中途半端に始めてしまうと、途中で反対意見が出たり、予算不足などで頓挫したりする恐れがある。だからこそ「やると決めた以上は、最初から全体設計し、本丸から一気に着手する」という戦略を取りました。もちろんリスクはありますが、「リスクはきちんと管理したうえでやり切る」という、社長の時田をはじめとする経営陣の強い覚悟がありました。

樋崎充(以下、樋崎):この判断はROI(投資利益率)の観点でも非常に合理的だったと思います。変革の投資対効果が見えやすくなりますし、本丸を押さえることで海外展開への説得力も高まります。多くの企業が「小さく始めて大きく展開」と言いながら途中で止まってしまうなかで、リスクを取って成し遂げようとする胆力は本当にすごいことですし、大きな変革の種をしっかり撒けたと実感しています。

自社改革から世界へ−富士通×PwCが挑んだ7万人DXの軌跡

樋崎充 PwCコンサルティング 常務執行役 パートナー

――日向様もパートナーとして、大変革の中心にいらしたと思います。現場支援の手応えはいかがでしたか。

日向昭人(以下、日向):PwCとしては戦略だけでなく、実行のレベルまで伴走することを心がけてきました。とりわけ会計領域では、要件定義から開発、テスト、稼働判定までをご支援しました。稼働前の厳しい局面では、私たちもプロジェクトメンバーの一員として現場に入り、品質管理や実装の見直しも行いました。困難な局面で頼っていただき、客観的な立場からリスクを指摘し、一部のつくり直しという決断をサポートできた点も重要だったと思います。

また、経営陣が全国を回り「この変革の先に何があるのか」を社員と共有してきたことは、現場にとって大きな支えになったと思います。稼働後に問い合わせが殺到したのも、社員の多くがポジティブにシステムを「使おう」としてくれていた証。無関心だったら、問い合わせすら起きなかったでしょう。この挑戦が単なるERP導入ではなく、経営起点で全社員を巻き込む変革だということを、プロジェクトメンバーをはじめ各現場の社員がポジティブに捉え、本気で取り組んでいたという点で非常にうまく行ったプロジェクトなのかなと思っています。

自社改革から世界へ−富士通×PwCが挑んだ7万人DXの軌跡

日向昭人 PwCコンサルティング 執行役員 パートナー

遠山:今おっしゃったことに加えて申し上げますと、このプロジェクトが目指すべき姿を、構想段階からPwCさんと一緒に共有して走り出せたのが大きかったと思います。「OneERP+」の国内稼働は「通過点でしかない」ことを、チームメンバーの皆が理解している。その共通認識、強い意志が変革を加速させる原動力になっていると確信しています。

統合データ基盤とSSC化で目指す「データドリブン経営」

――「OneERP+」が動き出したことで、今後はどのような段階へ移行していくのですか。

遠山:今後のテーマは、統一されたシステム基盤を活用した「データドリブン経営」の実現です。現在、全社統合データ基盤である「OneData」が整備され、それに基づく「OneReport」という、AIによるオンデマンドレポート生成の仕組みが運用され始めています。たとえば、「先週の受注トップ10を教えて」といった問いに、AIが即時にレポートを返すことができるようになっています。

また、各領域の業務オペレーションを集約・標準化するSSC(シェアードサービスセンター)化を進めています。CRM(顧客関係管理)領域では、「OneCRM」としてグローバルでの標準化が完了しており、業務オペレーションについてもすでに海外のグローバルデリバリーセンターに移管済みです。今後は、「OneERP+」で網羅している営業、SE、購買、経理といった業務領域でも順次SSC化を推進し、AI活用による業務の最適化と経営のスピードアップを進めていく方針です。

――この経験を社外に展開していく構想はあるのでしょうか?

遠山:はい。今年に入って「DX Insight Hub」という新しい組織を立ち上げました。今回の変革を通じて得られた知見や成功・失敗の教訓を形式知としてまとめ、同じような課題をもつ企業のお客様と共有していく取り組みです。PwCさんのアドバイスもいただきながら、富士通で実際に起きたことを参考に、再現性のあるDX支援をしていきたいと考えています。

DX変革のその先へ 未来をともに描くパートナーシップ

――最後に、富士通としての今後の展望と、PwCへの期待をお聞かせください。

遠山:富士通はこれまで国内外の多くのお客様とともに成長してきた会社です。今後は、AIや量子コンピューターといった先端技術を活用しつつ、ソリューションビジネスとのレバレッジを効かせて、グローバルに通用する「強い会社」を目指します。そのためにも、データドリブン経営を徹底していきます。PwCさんには、常に一歩二歩先を行くプロフェッショナルパートナーとして“挑戦の前線”に立ってもらい、引き続きのご支援をお願いしたいですね。

日向:私たちもこのプロジェクトを通して、多くの学びと挑戦をともにしてきました。単なる導入支援にとどまらず、構想から実行、稼働後の改善まで一貫して伴走できたことは、PwCにとっても非常に貴重な体験でした。今後も富士通さんとともに、国内外のクライアントに再現性のある変革支援を届けていきたいと考えています。

樋崎:日本企業として、ソリューションを軸にしたグローバルで通用する企業というのは、実はまだ前例がありません。富士通さんには、ぜひその先陣を切る企業になっていただきたいですし、「日本の富士通が何だかすごいソリューションビジネスの回し方をしている」と世界からベンチマークされる対象になる、そういう景色をぜひ見届けたいと思っています。PwCはこれからも富士通さんのパーパスを羅針盤に、伴走者を超えた“共創パートナー”として全力を尽くし、クライアントと社会に新たな価値を届け続けたいと思います。

自社改革から世界へ−富士通×PwCが挑んだ7万人DXの軌跡

遠山 興平
富士通 執行役員常務 CDXO(Chief Digital Transformation Officer)。コーポレートファンクションで2回のシンガポール駐在や、CEO室長として約5年間の社長サポートや経営戦略に従事後、2024年4月よりChief Data & Process Officer (CDPO)として、​富士通全社のデータドリブン経営実現に向けたOneFujitsuプロジェクトを統括。​2025年4月よりChief Digital Transformation Officer に就任。

樋崎 充
PwCコンサルティング 常務執行役 パートナー。米国戦略ファームを経てPwCコンサルティング入社。約20年にわたり、IT関連企業などに対し、事業戦略、組織戦略、M&A戦略、SCM戦略の立案・実行支援などのプロジェクトを手がける。近年は企業のデジタル化のコンサルティングに注力。

日向 昭人
PwCコンサルティング 執行役員 パートナー。外資系コンサルタティングファームを経てPwCコンサルティングに入社。20年以上にわたり、サプライチェーンおよび経営改革の専門家として、ハイテク産業を中心とした幅広い業種に対してサービスを提供。特にデジタルを活用した経営改革などの戦略立案から実行支援までを一貫して支援。

Promoted by PwCコンサルティング合同会社text by Sei Igarashiphotographs by Shuji Gotoedited by Akio Takashiro

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PwC コンサルティングはプロフェッショナルサービスファームとして、日本の未来を担いグローバルに活躍する企業と強固な信頼関係のもとで併走し、そのビジョンを共に描いている。本連載では、同社のプロフェッショナルが、未来創造に向けたイノベーションを進める企業のキーマンと対談し、それぞれの使命と存在意義について、そして望むべき未来とビジョンついて語り合う。