Forbes JAPAN BrandVoice Studio世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版
2020年のパーパス宣言以降、富士通は“パーパスドリブン×データドリブン”の両輪経営を掲げ、IT企業からDX企業への変革を進めている。CDXO(Chief Digital Transformation Officer)の遠山興平は、自らがCIO(Chief Information Officer)の役割も担い、“業務変革”と“ITの新陳代謝”を一体で敢行。変革を阻む「古いもの」を捨てながら、グローバル標準を築き、新たな価値を創出する挑戦をPwCコンサルティングとともに続けている。変革を主導する戦略とリーダーシップに迫る。
「OneERP+」で挑む富士通の経営改革
――富士通はパーパスドリブン経営とデータドリブン経営を両輪で推進されています。まずは、変革に舵を切った背景をお聞かせください。
遠山興平(以下、遠山):IT企業からDX企業への転換を打ち出したのは、現社長の時田が就任した2019年です。私は同じタイミングで社長とともに「変革のビジョン」を描きながら、経営企画や改革推進の実務に関わってきました。当時はお客様自身がITの活用を戦略的に考えて内製化を進める段階に入り、私たちの存在意義が問い直され始めた時代。それまで富士通は、お客様の要件を受けたシステム構築を生業としてきましたが、「信頼とテクノロジーをお客様にお届けする」という当社のDNAに立ち返って熟慮した結果、変わらないことがリスクであり、今こそDX企業への変革が必要と確信し、当社はその決断に踏み切ったのです。これは生き残り戦略であると同時に、社会に価値を提供し続けるという責務の表明でもありました。
20年には富士通のパーパスを「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」と明文化。また、社員一人ひとりが自分のパーパスも定めることで、自身の行動と組織の目標を結びつける自律型経営へと歩を進めました。こうした動きを加速させるには、客観的で正しいデータが欠かせません。理想を描きながら、現実を変える覚悟を持って、パーパスとデータを両輪で回すことは、私たちにとって必然の選択だったのです。

遠山興平 富士通執行役員常務 CDXO
――その中核をなすのが20年11月に立ち上がった「OneERP+」プログラムですね。
遠山:はい。「OneERP+」は業務プロセスとデータをグローバルで標準化し、データドリブン経営を支える基盤です。トップの号令のもと、当時の副社長でCOOの古田がオーナーとなり、CIOや業務担当責任者などで構成するステアリングコミッティを設置。販売管理や経営管理、営業、SE、購買、経理など業務ごとに現場からエース級の人材を集約し、専任でプロジェクトを推進する体制をつくりました。紆余曲折はありましたが、昨年10月に国内稼働を果たし、今後2、3年かけてグローバル展開を完了する計画です。
――PwCコンサルティングは構想段階から伴走支援をされています。この取り組みをどうご覧になりますか。
樋崎充(以下、樋崎):端的に言うと、時田社長の号令で変革に踏み出されて以降、富士通社内の空気感が大きく変わったと感じています。一人ひとりがゴールを意識した使命感をもち、表情も生き生きと輝いていますし、新しいアジェンダが出てきても「最終的なゴールに向かって走っている」という目的意識が常にあると感じています。多くの企業がツール導入に終始しがちななか、富士通さんはカルチャーとマインドセットの変革を並行して進めており、他社にも参考になる点が多いと感じています。

樋崎充 PwCコンサルティング 常務執行役 パートナー
日向昭人(以下、日向):印象的だったのが「+」へのこだわりです。「OneERP」で基幹システムを統一するだけでなく、「+」を付与することで経営管理、戦略にまでつなげるという強い意思を示されました。これを受け、私たちは富士通さんの自律的な取り組みを後押しすべく業務・IT両面で伴走しつつ、同じ立場に埋没せず「言いにくいところを言う」客観的な役割も意識しました。

日向昭人 PwCコンサルティング 執行役員 パートナー
CDXOに込めた意思と「一新一捨」の思想
――遠山様は25年4月にCDXOに就任されました。このミッションについて教えてください。
遠山:私は、昨年度はCDPO(Chief Data & Process Officer)として主にOneERP+プロジェクトをリードし、今年度からは従来のCDXO、CIO、CDPOの責務を統合したCDXOに就任しました。社長の時田からはどのタイトル名でもいいと言われましたが、私は迷わずCDXOを選びました。「OneERP+」を含め、当社のトランスフォーメーションはまだ道半ばであり、Xはトランスフォーメーションを意味する“動きのある言葉”です。富士通が「変革し続ける会社である」状態にしていくことを牽引することが私の役割だと考えたためです。
――変革を加速させるためには、古いものをどう捨てていくかも重要になりますね。リーダーシップを取るうえではこの辺にもご苦労があったと聞いています。
遠山:はい。実はレガシーは今も残っており 、新しいものと旧来のものが併存して動いている状態です。そこで「新しいものを入れるときは、古いものをひとつ以上捨てる」という、これは私の造語ですが「一新一捨」という考え方を取り入れました。単なる足し算ではなく、選択と集中によって組織を前に進めていくという意識づけを狙った言葉です。システム、ツール、そして人のスキルセットや行動、それらを一つひとつ新しくしていくことで会社全体の車輪が回っていく。この実践を徹底したいと考えています。
樋崎:絡み合ったレガシーは捨てにくいものです。IT的な観点だけで音頭をとってもなかなか物事は進まない。その点、富士通さんは、経営レベルでの事業構造の整理を一緒に進めており、経営戦略と紐づいた業務デザインを可能としています。そのため、 一新一捨をやりやすい環境が自然にできている。変革のロードマップがうまく組み立てられており、非常に理にかなっていると思います。
日向:“チーミングの妙”も功を奏しているのではないでしょうか。各事業のリーダーは複数の業務経験があります。それぞれにおいて、何が本質的で、何が不要かを見極める視点が肌感覚として染み付いていたため、事業構造の整理に合わせて現場レベルでの業務の取捨選択も比較的スムーズにできたのではないかと思います。そしてこの時期にCDPOとCIOの責務を遠山さんに一本化したことが、たゆまぬ変革を示唆する会社からのメッセージにもなっている。改革を進めるためのすべての要素が噛み合っていると感じています。
事業ポートフォリオ再編とグローバル化の加速
――DX企業・富士通として、事業ポートフォリオへの対応やグローバル化に対してどのように取り組まれていますか。
遠山:「OneERP+」プロジェクトは、単なる業務改善ではなく、経営プロジェクトとして会社の戦略方針と紐付けて実施していくという、極めて困難な取り組みでした。注力すべき事業と経営の舵取りを見据えたグランドデザインが求められ、構想設計段階からPwCさんに入っていただいて約1年半にわたり非常に幅広い議論を積み重ねました。
そのなかで23年、従来一体だったサービスソリューションとハードウェアソリューションを分離し、デバイスソリューション、ユビキタスソリューションと合わせて4つの事業セグメントに再編成することを対外的に発表しました。「OneERP+」のERP設計は、まさにこの新しい事業セグメント方針に基づいて構築されています。
グローバル化については、富士通は過去のM&Aにより、事業拡大を続けてきましたが、その結果としてITシステムや業務プロセスもバラバラに構築されてきたという経緯があります。グループ全体では約4,000以上のシステムが稼働していましたが、これらを統合して共通基盤に移行していくことが喫緊の課題です。
25年はまず、オセアニアと東南アジアで「OneERP+」を稼働させ、その後28年までに欧州、米国と順次展開していく予定です。最終的には、少なくとも基幹業務については1つのシステムに集約し、データ・アプリケーション・業務プロセスのグローバル統一を目指しています。これにより、今後のグローバル事業もよりスピード感をもって進められるようになるはずです。
――グローバル領域で豊富な知見をもつPwCコンサルティングのおふたりはどのように捉えていますか。
樋崎:「OneERP+」は、すべてを1つのシステムに統合するのが目的ではありません。グローバルで共通のアーキテクチャ思想に基づいて、それぞれのシステムが連携し合える構成にしていくことが肝要だと思います。その観点で、富士通さんはグループ全体のグローバルでの協業も進めながら、社外との接続性や柔軟性を重視した仕組みづくりを徹底されています。ITとビジネスの両輪で変革を進める、非常にバランスのとれた取り組みだと思います。
日向:その両輪の象徴が、マスターの共通化だと思います。仮にシステムが複数あっても、マスターの考え方が統一されていれば、自ずと業務オペレーションも収れんされていく。オペレーションが明快になり、他社から見てもわかりやすい形になるのです。現場と経営の認識が合っているからこそ、この統一された思想がしっかりと根付き始めていると実感しています。
変革し続ける企業であるために必要なリーダー像とは
――IT企業からDX企業への転換を、パーパスドリブン経営とデータドリブン経営の両輪で推進される体制がよくわかりました。改めてCDXOとしての展望と、変革を成し遂げるリーダー像をお聞かせください。
遠山:CDXOとしての私の役割は、グループ社員約11万人に向けて変革の旗を掲げ続け、その意味や価値を組織の隅々まで伝え、実行に移していくことだと考えています。どこか一部が変わったとしても組織としての成果には結びつきません。経営層と従業員とが一体となって進化していくために広い視野で相互の整合性を図り、業務変革と事業変革、マインド変革を同時に進めていく考えです。
具体的には「デジタルで変革とイノベーションを日常に」を目指していきます。全社の基幹業務を統合したOneERP+をはじめ複数の改革の取り組みを“線”としてつなぎ、新たな価値創出や経営判断の質を向上させ、この変革の“線”を日々成長を遂げる“面”へと拡張させるため、全員が変革カルチャーを持ち続けるための活動を継続して実施していきます。

後編に続く
遠山 興平
富士通 執行役員常務 CDXO(Chief Digital Transformation Officer)。コーポレートファンクションで2回のシンガポール駐在や、CEO室長として約5年間の社長サポートや経営戦略に従事後、2024年4月よりChief Data & Process Officer (CDPO)として、富士通全社のデータドリブン経営実現に向けたOneFujitsuプロジェクトを統括。2025年4月よりChief Digital Transformation Officer に就任。
樋崎 充
PwCコンサルティング 常務執行役 パートナー。米国戦略ファームを経てPwCコンサルティング入社。約20年にわたり、IT関連企業などに対し、事業戦略、組織戦略、M&A戦略、SCM戦略の立案・実行支援などのプロジェクトを手がける。近年は企業のデジタル化のコンサルティングに注力。
日向 昭人
PwCコンサルティング 執行役員 パートナー。外資系コンサルタティングファームを経てPwCコンサルティングに入社。20年以上にわたり、サプライチェーンおよび経営改革の専門家として、ハイテク産業を中心とした幅広い業種に対してサービスを提供。特にデジタルを活用した経営改革などの戦略立案から実行支援までを一貫して支援。
Promoted by PwCコンサルティング合同会社text by Sei Igarashiphotographs by Shuji Gotoedited by Akio Takashiro
PwC コンサルティングはプロフェッショナルサービスファームとして、日本の未来を担いグローバルに活躍する企業と強固な信頼関係のもとで併走し、そのビジョンを共に描いている。本連載では、同社のプロフェッショナルが、未来創造に向けたイノベーションを進める企業のキーマンと対談し、それぞれの使命と存在意義について、そして望むべき未来とビジョンついて語り合う。