北米

2025.06.13 09:00

ウランが熱い 米国の「原子力ルネッサンス」で周辺産業にも光明が

米ユタ州モアブ近郊のウラン鉱山。2012年02月23日撮影(Getty Images)

米ユタ州モアブ近郊のウラン鉱山。2012年02月23日撮影(Getty Images)

米国では過去25年間、原子力発電が停滞していた。技術的には実現可能で環境にも優しいが、政治的には不人気で、経済的にも競争力がなかったからだ。

しかし、ここへ来て楽観論が浮上している。原子力の近代化と復興を目指す米政府の動きが、長らく休眠状態にあったウラン産業に新たな息吹を吹き込んでいるのだ。それは、米国のエネルギー政策の構造的転換に先立ってポジションを取ろうとしている投資家にとって重要な意味合いを持つ可能性がある。

原子力の衰退

原子力は長い間、米国の電力の中で重要な位置を占めてきた。技術的には二酸化炭素排出量が少なく、信頼性の高いベースロード電源(訳注:低費用で安定的に供給できる電源)の1つだ。他方で、規制上の障壁や世論の懐疑的な見方に加え、天然ガスや近年では再生可能エネルギーといった安価な代替エネルギーの台頭などが重なり、その成長は妨げられてきた。

1986年のチョルノブイリ(チェルノブイリ)原子力発電所事故や2011年の福島第一原子力発電所事故といった災害を受け、原子力発電に対する関心は世界中で冷え込んだ。こうした需要の減退により、ウラン市場は過去10年間にわたり供給過剰となり、価格が下落し、生産者は鉱山の操業休止や減産を余儀なくされた。多くの投資家はウラン市場がかつてのような存在感を取り戻すことはないと確信し、完全に手を引いた。

米政府の方針転換

その物語が今、変わりつつあるのかもしれない。米国のドナルド・トランプ大統領は先月、原子力発電の推進に向けた4つの大統領令に署名した。原子力規制委員会の改革原子力業界の復興国家安全保障のための先進的原子炉技術の開発エネルギー省による原子炉試験の改革から成る4つの骨子は「原子力ルネッサンスを導く」ことを目的としている。この包括的な計画には、次世代原子炉の迅速な認可と原子力発電所への直接支援のほか、恐らく最も重要だと思われる国内のウラン産業の増強に改めて重点を置くことなどが盛り込まれている。

この政策転換は経済にとどまらず、国家安全保障にも関連している。米国の原子炉で使用されているウランの約半分は外国産で、特にロシアやカザフスタンのような旧東側諸国からも輸入されている。政権が国内のウラン供給網の再構築を推進しているのは、重要な鉱物市場の戦略的な脆弱(ぜいじゃく)性に対する懸念の高まりを反映している。

市場の反応

長い間低迷していたウラン価格は、この政府の方針転換に即座に反応した。大統領令の発表を受け、ウラン先物取引は約7%上昇し、カメコやエナジーフューエルズをはじめとする米国に拠点を置く鉱山会社の株価も軒並み上昇した。

電力会社もウラン市場に再び参入し始めているようだ。米国では、複数のウラン生産者が長期契約を巡る協議が活発化していると報告している。これは、短期的な価格決定が支配的になりがちな商品市場での重要な動きと言えよう。この傾向が続けば価格が安定し、国内の鉱業施設への新たな投資の基盤が築かれる可能性もある。

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翻訳・編集=安藤清香

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