以下、香港在住のインタビューライター、堀江知子氏による寄稿である。
街全体で誕生日を祝う!
「香港の推し活はレベルが違う」そう思い知らされた出来事がある。
ある日の午後、私は子どもの習い事のためにバスに揺られていた。ところが途中で、先生から一本の連絡が入る。
「今日はレッスンをおやすみにします。教室のあるコーズウェイベイが、ちょっととんでもないことになっていて……」。
理由を聞いて、思わず聞き返してしまった。
「今日は、人気アイドルグループ『MIRROR(ミラー)』のファンが殺到していて、誕生日を祝っているんです」。
とはいえ、すでに近くまで来てしまっていた私たち。せっかくなので、その推し活の現場をこの目で確かめるべく、香港の渋谷とも言える繁華街のコーズウェイベイへと足を運んだ。
到着すると、まさに「次元の違う推し活」の世界が広がっていた。周辺一帯が、花火大会の後の帰宅ラッシュのような大混雑ぶりで前に進めない。
巨大なデジタルスクリーンには、「ミラー」のメンバー姜濤(ギョン・トウ)さんの誕生日を祝う広告がずらりと並ぶ。ショッピングモール内の特設エリアでは彼の写真が展示されキャラクター人形まで登場している。香港だけでなく海外から集まったファンたちが熱心に写真を撮り、街全体が姜さんの誕生日を祝うお祭りと化していた。
観光客にも人気の高い「トラム(路面電車)」に目を向けると、姜さんの写真や「Happy Birthday」の文字がラッピングされている。トラムが通過すると沿道につめかけていたファンたちが一斉に「ギョン・トウ!」の大合唱で迎える。この日はトラムの運賃が無料となり、ファンだけでなく通勤中の市民も「推し活仕様」のトラムを楽しんでいた。香港の公共交通機関が丸一日貸し切られるという異例のイベントとファンの熱気に、筆者は息を呑んだ。地元メディアによれば、1000人を超える人々がこの祝いの祭典に集まったという。
その数日前には、九竜地区で姜さんをモデルにしたアニメキャラクターの10メートル大型バルーンが設置され、ドローンのショーや花火大会で誕生日が祝われ、6千人以上のファンが集まった。
ミラーのメンバーたちのこういった誕生日イベントは毎年恒例となっている。単なるアイドルとは言えない圧倒的な存在感を持つミラー。彼らの誕生日イベントは「香港の結束を強め心のよりどころとなる推し活」の現場だった。



