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2025.06.25 16:00

テクノロジーは平和にどう貢献できるのか。第1回「ピーステック・アワード」開催

紛争を予防し、平和を推進するためにテクノロジーを戦略的に利用する「PeaceTech(ピーステック)」。それに従事するスタートアップなどの事業者を発掘し、成果を称える「第1回ピーステック・アワード」が5月19日(月)、渋谷QWSスクランブルホールで開催された。“ピーステック”という新たな産業が生まれた日をレポートする。


そもそも平和とはどのような状態なのか。「第1回ピーステック・アワード」の冒頭、国際平和拠点ひろしま+東京コミュニティ代表でピーステック・アワード実行委員長を務める佐々木喬史は、氷山モデルを用いて平和の概念について説明した。

「水面の上に出ている紛争、戦争などがない状態が『消極的平和』。それに対して、水面の下に隠れている差別や格差などがない状態を『積極的平和』と言います。ピーステック・アワードでは、この積極的平和までをスコープに定めています」

貧困・抑圧・差別などの構造的暴力がない積極的平和は、消極的平和の礎になるという。そうした平和を阻害する課題をテクノロジーで解決するのが“ピーステック”であり、それに従事するスタートアップなどの事業者を発掘し、成果を称えるのがピーステック・アワードの目的だ。

佐々木は「今日、この場からピーステックという新しい産業が生まれます」と言明すると、「ピーステック・アワードのスタートです」と開始を高らかに宣言した。

佐々木喬史 国際平和拠点ひろしま+東京コミュニティ代表/ピーステック・アワード実行委員長
佐々木喬史 国際平和拠点ひろしま+東京コミュニティ代表/ピーステック・アワード実行委員長

水問題を解決する「WOTA」と農業の生産性向上を支援する「EFポリマー」

アワードは、危機管理部門と積極的平和部門に分けて行われた。前者は、予選を勝ち上がったWOTA、サグリ、Spectee、天地人、後者はEFポリマー、インスタリム、エアロネクスト、Dotsfor、デジリハ、日本植物燃料がノミネート。10社がテクノロジーの活用によって平和に貢献する取り組みを熱く語った。

激戦のなか、危機管理部門賞を獲得したのはWOTAだった。同社は水問題の構造的解決を目指し、排水を再生・循環利用することで上下水道に依存せずに水利用が可能な「小規模分散型水循環システム」を開発する。

登壇した執行役員渉外統括の越智浩樹は、水不足や日本の水財政などの問題を提起し、それらの解決策は、集合型と分散型のベストミックスによる水インフラの構築だと提案した。

「人口が多い地域に関しては、これまで通りの上下水道システムを利用し、人口密度が低い地域や島嶼、これから水道を引くところには分散型で展開します。そうすることで導入が早くてコストも安く、災害に強い水インフラをつくることができます」

また越智は災害対策として、断水状況においてもシャワー入浴や手洗いを可能にする小規模分散型水循環システムが能登半島地震で活用された事例を紹介。さらには海外展開として、カリブ海のアンティグア・バーブーダでの国営住宅への導入事例を紹介した。

部門賞を受賞した越智は喜びを示すとともに、ほかのファイナリストたちに協業を呼びかけた。

「登壇された皆さんは素晴らしい企業が多く、海外も含めて一緒に展開できそうなたくさんの会社に出会えたので、今日をきっかけに、次の展開を加速していければと思っています」

越智浩樹 WOTA 執行役員渉外統括
越智浩樹 WOTA 執行役員渉外統括

積極的平和部門賞を受賞したのは、沖縄に拠点を置くEFポリマーだ。同社は、オレンジやバナナの皮などの残渣をアップサイクルした、完全有機の超吸水性ポリマー「EFポリマー」を農業資材用途として製造・販売している。登壇したChief Marketing Officerの中尾享二は、同社が考える平和貢献はふたつあると力説した。

「限りある水という資源によって、争いや人の移動を余儀なくされています。まずは、こうした課題をグローバル規模で解決していく。その解決手段は、一部の人たちだけが使えるようでは意味がないので、地方の貧困層の方々が継続的に使えるようにしなければならないと考えています。そしてふたつ目は、農業の基礎力向上です。気候変動や水不足に対して戦える、基礎的な力をつけることが重要だと考えています」

それらを実現するのがEFポリマーなのだという。同ポリマーは吸水性が高く、作物の根の部分に混ぜると水を吸収してそれを保持する働きがあるため、水不足の環境下でも収穫量を向上させることができる。しかも肥料も一緒に吸収するため、使用する肥料の削減にもつながる。すでにインドなどで展開し、成果を挙げているという。

部門賞を受賞した中尾は、ピーステック・アワードの意義を強調した。

「ここに来る前に、経営層のそれぞれが思うピースについて話し合うという、非常にいいきっかけをいただきました。会社のステージが変わるといろいろな決断を迫られ、迷いも生じます。そうしたときに今回考えたことを思い返し、いい決断をしていきたいと思います」

中尾享二 EFポリマー Chief Marketing Officer
中尾享二 EFポリマー Chief Marketing Officer

どのプレゼンもレベルが高く、審査員の間で意見が割れたため、当日は急遽、審査員特別賞が設けられた。受賞したのは、デジタルアートとセンシングシステムを活用することで、リハビリを楽しく行うアプリケーションを開発するデジリハだ。登壇した国際展開部の髙木萌子は、予想外の受賞に驚きつつも、決意を新たにした。

「誰ひとり取り残さないという目標があるなか、どうしても障害をもつ方は、社会で自由な選択ができないという課題を抱えています。リハビリだけでなく、いろいろな分野においてまだまだ私たちがやらなければならないことはたくさんあります」

髙木萌子 デジリハ 国際展開部
髙木萌子 デジリハ 国際展開部

世界中に安価で高品質の義足を届ける「インスタリム」

そして、記念すべき第1回のグランプリに輝いたのは、3Dプリンターで義足を製造するインスタリムだ。義足は一人ひとりの形状やサイズが異なるため、専門知識をもった職人による手づくりが一般的だ。それゆえに高額で、特に発展途上国では、庶民には手が出せない。同社は、AIを活用した独自のソフトウェアで設計し、自社開発の3Dプリンターで出力することで、安価かつ高品質な義足を製造する。登壇したCEOの徳島泰がその想いを語った。

「世界では1億人以上が義肢装具を必要としていますが、製品にアクセスできるのは10%に過ぎず、そのほとんどが先進国に限られています。私たちは残りの90%を市場化し、義足を届けます。義足を買うことができず、『自分は動けないので、役立たずだと思う』と打ち明ける女の子もいましたが、そういったことを誰も言わなくて済む世界をつくっていきます」

同社は日本ではR&D拠点しかなく、事業を展開しているのはフィリピンやインド、ウクライナなどの海外だという。今後5年以内にアフリカと南米にも拠点を設立し、全グローバルサウスへの拡大を見据えている。

グランプリを獲得すると徳島は「非常に名誉のある賞をいただき、心から嬉しく、皆様に深く感謝を申し上げたいと思います」と感謝を示すと、平和への貢献を力強く宣言した。

「ここにエントリーされた数々の社会問題にアプローチするスタートアップやテック企業が手を取り合っていけば、積極的平和という枠組みだけでなく、起こっている紛争に対してもアプローチできる。世界平和を実現できる日もそれほど遠くないのではないかと、非常に勇気づけられる、希望がもてるアワードだったと思います。この受賞を胸にいっそう励み、この先10年で私たちは、義足・義肢装具の世界的な問題を完全に解決することを皆様にお約束します」

左:徳島 泰 インスタリム 代表取締役CEO。右:審査員の小木曽 麻里 SDGインパクトジャパン  代表取締役Co-CEO
左:徳島 泰 インスタリム 代表取締役CEO。右:審査員の小木曽 麻里 SDGインパクトジャパン 代表取締役Co-CEO

アワードの途中には、パネルディスカッションも行われた。テーマは「未来に向けて『平和×テクノロジー×ビジネス』の可能性」。早稲田大学大学院経営管理研究科・早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄、シブヤスタートアップス代表取締役社長の渡部志保が登壇し、前出の佐々木がモデレーターを務め、ピーステックの可能性について語り合った。

渡部は、誰にとっての平和なのかを考えることが重要であるとし、「今はみんなが互いに優しくならなければならないときだ」と強調した。

「ソーシャルメディアなどにはいろいろな考え方や声がありますが、誰かのための平和ではなくて、『みんなの平和』という考え方が大事だということを、このピッチを見ていて強く感じました」

入山は、日本が戦争に対する肌感覚をもっていないのは「日本が平和だからだ」と指摘したうえで現場の重要性を説き、ピーステックの未来についてこう提言した。

「地方に行けば行くほど、現場にはピースではないことがたくさんあるので、ピーステックを推進するには、現場感をもつことが非常に大事です。そうしたイベントも行っていくべきでしょう」

ファイナリストおよび審査員一同
ファイナリストおよび審査員一同

「第1回ピーステック・アワード」
https://sdgsforpeace.tokyo/peacetech/

Promoted by 世界平和経済人会議ひろしま東京セッション運営委員会 / Text by Fumihiko Ohashi / photographs by Takao Ota / edited by Akio Takashiro