ビジネス

2025.06.12 09:00

アップルはなぜ米国内でiPhoneを製造することができないのか?

Mehaniq / Shutterstock.com

コストと競争圧力

アップルがiPhoneを米国内で製造すれば、1台当たりの費用は現行の2倍から3倍になるだろう。人件費や設備投資、航空機による調達、アジアを拠点する部品業者の複製の必要性により、少なくとも消費者に費用を転嫁したり利益率を下げたりすることなく米国で製造することは非現実的だ。アップルのように、技術革新とコスト構造で世界の競合他社に後れを取らないようにしなければならない企業にとって、それは単純に不可能なことなのだ。

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政策と現実の不一致

米国では国民や政府から、アップルに対し「雇用を国内に戻す」よう圧力がかかっている。善意とはいえ、このような考え方は基本的な現実を見落としている。最適化された世界規模のサプライチェーンを一夜にして移転することはできないのだ。税制上の補助金や控除は助けになるが、物流や製造設備、労働者訓練を全国規模で再構築することの複雑さは考慮されていない。

アップルはデスクトップ型コンピューター「Mac Pro(マックプロ)」の米テキサス州での製造や、パートナーを通じた新たな半導体製造工場への投資など、米国を拠点とした製造への投資で功績を挙げている。だが、iPhoneは別物だ。アップルにとって最も生産数が多く、最も複雑な製品だ。米国に上陸させることは、砂漠に熱帯雨林を移植するようなものだ。

アップルが米国でiPhoneを製造しないのは愛国心がないからではなく、世界の製造業の新たな現実を示すものだ。米国はこのシステムの中で、特に半導体研究開発と次世代材料科学の面で大きな役割を果たすことができる。それでも、自国でiPhoneを製造するには、製造業のルネッサンスを起こさなければならない。アップルのクックCEOは、現政権の要求に対処する上でバランス感覚を要求されているが、この種の製造業を一朝一夕に米国に持ち込むことは不可能だ。

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アップルは、設備と人材、サプライチェーンがそろい、精密さ、効率性、スピードを備えた大規模生産が可能な場所で、今後も製造を続けるだろう。家電製品では、この3つが成功のために不可欠なのだ。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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