北米

2025.06.13 08:45

マッカーシズムのバージョン2、猛威をふるうトランプ政権の差別政策

2025年6月8日、米カリフォルニア州ロサンゼルスで、トランプ政権が移民強制捜査を続ける中、移民・関税執行局(ICE)の職場襲撃の即時中止を要求する数百人の抗議者が集まった(Photo by Tayfun Coskun/Anadolu via Getty Images)

2025年6月8日、米カリフォルニア州ロサンゼルスで、トランプ政権が移民強制捜査を続ける中、移民・関税執行局(ICE)の職場襲撃の即時中止を要求する数百人の抗議者が集まった(Photo by Tayfun Coskun/Anadolu via Getty Images)

米ロサンゼルスで移民摘発を巡る抗議デモが激化している。バス同市長は10日、中心部の一部地域で午後8時から午前6時までの夜間外出禁止令を出した。トランプ大統領はデモ参加者らを「外国の敵」「侵略者」と呼んでののしった。カリフォルニア州の州兵に続き、本来は米国内での活動を想定していない海兵隊も投入した。

米アトランティック誌によれば、かつての海兵隊大将で、第1期トランプ政権で国防長官を務めたジェームズ・マティス氏はロスの混乱を「怒りと愕然とした思い」で眺めていると語った。「ドナルド・トランプは、私の生涯で初めて、アメリカ国民を団結させようとしない大統領だ。それどころか、彼は私たちを分断しようとしている」と訴えた。

ロサンゼルスに自宅がある米政府の元当局者は「米国の中心がなくなってしまった気分だ」と語る。第2次世界大戦後の米国は自動車などの製造業で栄え、分厚い中間層が民主主義を支えた。社会の発展と自由貿易の結果、ローテクで模倣が簡単な製造業は人件費の安い国々に移った。米国では代わりに知識集約型産業が栄えたが、中間層の人々すべてがすぐ、「リスキリング(学び直し)」できるわけもない。怒りの矛先を探していた人々の前に現れたのがトランプ大統領だった。

元当局者は「トランプは人々の怒りをうまく利用し、陰謀論者たちが作った怒っている人々が喜ぶストーリーを提供している」と語る。「トランプは、米国が強奪されようとしていると訴え、不法移民や留学生、中国人らを強奪者に仕立て上げている」。「ハーバードの次は、イエール(大学)が標的になるだろう。両方ともにアイビーリーグの代表格だから。トランプだってペンシルベニア大の出身だが、いい加減なストーリーだから、そんな矛盾はいくらでもある」とも語る。ロサンゼルスの暴動も起きるべくして起きた事件と言えるだろう。

そのうえで、この元当局者は「これは形を変えた人種差別だ。マッカーシズムのバージョン2と言える」と話す。マッカーシズムは1950年代、台頭するソ連や中国などの共産主義国家に脅威を感じた米国で猛威をふるった反共産主義運動だが、「実態は三分の一が反共産主義、残りの三分の二が人種差別だった」(元当局者)という。「反共産主義」を掲げながら、街のあちこちで中国系米国人を差別する事件が発生した。白人であっても、中国で働いた経験や中国研究をしている人々も迫害された。国務省では当時、数十年間にわたって中国専門家がいなくなったと言われた。

問題はそれだけではない。米ニューヨークタイムズ紙によれば、民主党のジョン・フェッターマン上院議員(ペンシルベニア州選出)はロサンゼルスの状況を「無政府状態」と呼び、暴力行為を十分非難しない場合、民主党に政治的な反発が及ぶと指摘した。フェッターマン氏を巡っては、「共和党寄りの発言をする」という批判もあるが、元当局者は「確かに対立をあおる行為がないとは言い切れない。デモをすればするほど、保守系の人々はトランプを好きになり、支持するだろう」と語る。

マッカーシズムの名前の由来になった共和党のジョセフ・マッカーシー上院議員は後に、「上院に不名誉をもたらした」と断罪された。マティス氏は「新たな道を歩むことによってのみ、建国の理念の本来の道に戻ることによってのみ、私たちは再び国内外で賞賛され、尊敬される国になることができる」と訴えた。

しかし、トランプ氏が引き起こした一連の騒動は、政治的対立と分断をあおるばかりだ。「トランプの文化大革命」とも呼ばれる混乱が終わる気配は現在、まったく見られない。

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文=牧野愛博

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