1948年の設立以来、WHOは数々のプログラムを主導し、多数の命を救ってきた。WHOが最初に携わった主要プロジェクトの1つが、世界的な予防接種運動であり、最終的に1980年の天然痘根絶へとつながった。1977年以降、WHOの必須医薬品リストは2年ごとに更新され、多くの国にとって医薬品調達政策の重要な指針となっている。
現在のところ、国際的な緊急対応活動を調整し、医学研究と技術革新を共有し、重要な情報を発信する能力を持つ組織は他にない。こうした活動には、アフリカで発生したエボラ出血熱や世界的な麻疹の流行、毎年の予防接種に使用される季節性インフルエンザの菌株配列決定などが含まれる。WHOはエイズウイルス(HIV)やマラリア、結核のほか、リーシュマニア症やデング熱、河川失明症など「顧みられない熱帯病(NTDs)」を撲滅する努力でも不可欠な存在だ。NTDsは寄生虫や細菌による多様な疾患で、世界中で10億人以上が罹患(りかん)している。中でも、貧困層や社会から疎外された人々の罹患率や死亡率が高い。2012年に英ロンドンで作成されたWHOのNTDs対策の行程表には、既存の治療法の普及や医薬品の寄付、新薬開発の研究開発資金に関する官民協力などの目標が盛り込まれている。NTDsの疾病予防と感染者の治療の実施には大きな進展があった。だが、この改善も予算削減により逆戻りする可能性がある。
米国は1948年、議会の承認をもってWHOに加盟した。米ジョージタウン大学で公衆衛生法を専門とするローレンス・ゴスティン教授によれば、WHOからの脱退を国連に通告したトランプ大統領の行為は、議会の承認を経ていないため、米国の法律に違反するという。とはいえ、トランプ政権が計画を進めるのを止めるものは何もないようだ。
恐らく政権は、共和党議員の多くがWHOが必要な改革を実施していないとして同機関への反対姿勢を示しているという事実を盾にしているのだろう。議員らは、WHOが一部の加盟国の政治的影響から独立していることを示していないと指摘しているが、皮肉なことに、その中には今後さらに権力を握ることになる中国も含まれている。議員らは、米国が世界初となるパンデミック条約に署名することにも反対した。この条約は、将来のパンデミックの予防と対策を目的とした法的拘束力のある協定案だ。
米国がWHOをはじめとする国際的な保健機構から退却する一方で、中国が台頭しつつある。同国は世界の保健政策に影響を与えるという点で、米国の指導的役割に取って代わろうとしている。


