政治

2025.06.11 11:00

米国のWHO脱退、空いた穴を埋める中国が最大勢力として台頭

スイス・ジュネーブにある世界保健機関(WHO)。2025年1月23日撮影(Robert Hradil/Getty Images)

スイス・ジュネーブにある世界保健機関(WHO)。2025年1月23日撮影(Robert Hradil/Getty Images)

スイス・ジュネーブで5月に開催された世界保健機関(WHO)の年次総会では、同機関の予算危機による混乱の可能性が話題に上った。出席者らは一様に、WHOの予算が削減されることにより、患者数と死者数が世界中で著しく増加する恐れがあるとして、懸念を表明した。

財政難の最大の原因は米国だ。同国のドナルド・トランプ大統領はWHOだけでなく、64年前に設立された米国際開発庁(USAID)のような世界規模で保健問題に取り組む機関から資金を引き揚げようとしている。

トランプ大統領は1月、WHOからの米国の脱退を命じる大統領令に署名した。同国の脱退は、世界的な公衆衛生の使命を遂行するWHOの能力を著しく損なう。米国は長年、同機関にとって財政的に重要な役割を果たしてきたからだ。WHOの設立から77年間、米国は加盟国の中で最大の財政負担を担い続けてきた。同国は2023年、WHOに12億ドル(約1740億円)を拠出した。2024~25年には、米国はWHOの予算のほぼ15%に当たる9億5800万ドル(約1390億円)を提供した。WHOから脱退する場合は1年前に通告する必要があるため、米国は2025年までの財政的義務を果たさなければならない。これにより、米国は2026年にWHOから正式に脱退することが決まった。同国の脱退に伴い、WHOは2026~27年の予算を20%削減し、42億ドル(約6090億円)とした。

米国の脱退後は、中国がWHOの世界最大の資金供与国になる。中国は米国が抜けた穴を一部埋めるべく、向こう5年間で5億ドル(約720億円)を追加拠出すると表明した。同国のかつての拠出額はわずか3900万ドル(約57億円)だった。

WHOはまた、加盟国に強制的に課す分担金を20%引き上げる。これ以外にも、予算の溝を埋めようとする動きがある。WHOによると、複数の国や組織から新たに1億7000万ドル(約250億円)以上の提供があったという。例えば、デンマーク製薬大手のノボノルディスクは、自社の慈善基金を通じてWHOに約5800万ドル(約84億円)の寄付を約束している。

WHOは国連の専門機関として、国際的な公衆衛生に責任を負っている。疾病の監視から予防接種や水衛生、保健衛生上の緊急事態に対処する国々への支援に至るまで、同機関は幅広い公衆衛生活動で194の加盟国すべてと協調している。感染症のパンデミック(世界的な流行)をはじめとする国境を越えた健康の脅威を管理するためには、国際的な協調が不可欠だ。

次ページ > WHOが担う幅広い役割

翻訳・編集=安藤清香

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事