投資家が代表的な貴金属である金(ゴールド)から資金を引き揚げる中、白金(プラチナ)が大きな利益をもたらし、貴金属の主役として復活しつつある。白金鉱山で副産物として採掘されるパラジウムも力強く上昇している。
白金もパラジウムも過去10年間にわたる供給過剰が解消され、供給不足の兆候が現れていることから、いずれも引き続き好調を維持する可能性が高い。
白金価格は前月比24%上昇し、1トロイオンス当たり1218ドル(約17万6000円)と4年ぶりの高値を付けた。パラジウムも13%上昇し、1077ドル(約15万6000円)となった。一方、金価格の上昇幅は1.5%にとどまり、3205ドル(約46万3000円)となった。金は過去3年間にわたって需要が急拡大し、2022年6月の1810ドル(約26万2000円)前後から83%上昇している。
白金価格の回復には長い時間がかかった。しかし、白金の価格が金価格を大幅に上回っていたのはそれほど昔のことではないことを覚えている投資家もいるだろう。2008年半ば、白金価格は2068ドル(約29万9000円)で、903ドル(約13万1000円)で売られていた金の2倍以上だった。
フォルクスワーゲンの偽装問題で白金価格が下落
白金とパラジウムの需要は宝飾用と産業用双方にまたがる。近年では特に、環境に有害な亜酸化窒素の排出を最小限に抑える内燃機関の触媒コンバーター向けの需要が高まっている。
ところが2015年、ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が排気システムの測定を偽装していたことが発覚すると、白金市場は混乱。わずか数カ月で白金価格は804ドル(約11万6000円)まで暴落した。ガソリン車の触媒コンバーターに使用されるパラジウムも下落したが、下げ幅は白金ほどではなかった。
白金とパラジウムの価格をさらに押し下げているのは、触媒コンバーターを必要としない電気自動車(EV)の普及だ。ただし、ハイブリッド車には触媒コンバーターが必要で、場合によってはコンバーターに白金やパラジウムのより厚いコーティングが必要となる。
だが、現在の白金価格回復の主な要因は、地上在庫の枯渇、つまり新たに採掘される供給が需要に追いつかないという単純な状況のためだ。白金やパラジウムの主要産地である南アフリカやロシアの鉱山では、価格が低迷していた時期に操業を縮小していたことが背景にある。
先月公表された世界白金投資評議会(WPIC)の報告書では、白金は今年、96万6000トロイオンス不足するとみられ、3年連続の供給不足になると予想されている。さらに重要なのは、地上在庫がわずか3カ月分の需要を満たすだけの216万トロイオンスにまで減少するため、白金価格を圧迫する可能性があることだ。
白金鉱山企業の株価も急騰
白金市場の突然の変化は実に10年ぶりの出来事で、白金鉱山企業の株価の急騰も引き起こしている。その最大の恩恵を受けたのが、英バルテラ・プラチナム(旧アングロ・アメリカン・プラチナム)だ。今月初めに英ロンドン証券取引所に上場して以降、バルテラの株価は白金価格に追随して24%上昇している。
小型銘柄はさらに好調だ。南アフリカのインパラ・プラチナム傘下のジンバブエに特化した鉱山企業ジンプラッツは、この1カ月で60%上昇。南アフリカで新たな白金鉱山の開発を計画しているオーストラリア上場のサザン・パラジウムは120%上昇した。