エコシステム構築と日本におけるスポーツの新しい価値創造
今回の調査を通じ「熱しやすく冷めやすい」日本人が常に多様なスポーツイベントに熱狂し、独自の価値を見出している姿が浮かび上がった。オリンピックのようなメガイベントが国民的一体感を生み出す一方で、特定の競技やチームへの深い愛情が熱心なコミュニティを形成し、また自国開催の国際大会が新たな関心を喚起している。熱狂を一時的なものに終わらせず、持続可能なスポーツ文化、そしてスポーツビジネスのエコシステムへと昇華させていくためには、何が必要だろうか。これは日本スポーツ界において恒常的な問題としても掲げられている。
第一に、スポーツの熱狂を持続可能なエコシステムへと昇華させる必要がある。各競技団体は以前のように動物的勘で施策を講じるのではなく、データに基づいた戦略的意思決定の重要性を認識すべきだ。ファン層の特性、関心の変化、メディア接触の動向などを的確に把握し、それに基づいたイベント企画、マーケティング、ファンサービスを展開することが、今後は不可欠である。そして、この取り組みは自らの競技さえ成長すれば良いという排他的な発想ではなく、競技横断の上、オールジャパンとして取り組むべき課題であろう。
第二に、多様なステークホルダーとの連携強化だ。競技団体、スポンサー企業、メディア、地域社会、そして何よりもファン自身が連携し、共にスポーツ文化を創造していくという視点が求められる。つまり「スポーツ界」のみならず、日本の経済界としての取り組みは迫られており、そのための「スポーツ庁」が創設されたと考えるべきだろう。
第三に、次世代育成への継続的な投資である。トップアスリートの活躍は最大のコンテンツであるが、その土壌となるグラスルーツレベルでのスポーツ振興や、若い才能の発掘・育成を怠っては、長期的な発展は望めない。ましてや、人類史上稀にみる急速な人口減少が日本スポーツ界を襲う今、こうした数値に一喜一憂するだけではなく、日本社会におけるスポーツの新たな役割と真摯に向かう必要があろう。
スポーツは、あくまでエンターテインメントのいちジャンル。しかし、それと同時に、教育、健康増進、地域活性化、国際交流など、多岐にわたる価値を社会にもたらす。今回の調査データが示す日本人のスポーツへの情熱は、これらの価値をさらに高め、より豊かな社会を実現するための大きな可能性を秘めている。その熱狂の先に、私たち日本人はどのような未来を描くのか。その答えは、スポーツ界のみならず、日本のスポーツ・ファン、ひとり一人のこれからの行動、他人事としない共感の広がりにかかっているのではないだろうか。
*ファンの定義については、調査対象の興味度を5段階評価(「5. 非常に興味がある」~「1. 全く興味がない」)で聴取し、「5」を選んだ人を「コアファン」、「5」または「4. 興味がある」を選んだ人を「ファン」と定義 。各スポーツイベントの「認知率」「ファン率」「コアファン率」を算出した。


