エコシステム全体での価値創出を狙うメカニズム
アップルの戦略はAIテクノロジーを各製品の利用場面に自然に溶け込むように実装し、強く意識した使いこなしをせずとも、その恩恵を得られるよう演出していることで、そこには新しいデザインとの相乗効果もある。
Liquid Glassは誰にでもわかりやすい表層部の革新だが、Apple Intelligenceは表面的には派手さはないものの、一貫したポリシーで実装され、あらゆる部分で普遍的にAIの恩恵を受けることができる。
さらに、いずれの取り組みもデバイスの違いを感じさせない一貫性があるため、1つのデバイスで習得した操作やワークフロー、あるいはコンセプトのようなものが、他のすべてのデバイスでも活用できる。
デバイス間でのシームレスな作業継続により、場所や状況に応じた最適なデバイス選択が可能になりのも利点だろう。どのデバイスでも、同じようにApple Intelligenceは動作する。
プライバシーを保護しながらデバイス間でApple Intelligenceを共有することで、どのアップル製品でも「デバイスの内側」に、自分自身の使い方に最適化されたかたちでAIが生かされ、自然に体験レベルが向上する。
いうまでもなく、この統合的なアプローチは、多様なジャンルのコンピュータをラインナップに持ち、ハードウェアそのものの設計や生産はもちろん、使われる半導体チップに至るまで内製し、OS、サービスをも統合するアップルならではのものだ。
ここまで垂直統合されたビジネスモデルの場合、ライバルは模倣困難になる。ユーザーのスイッチングコストを高め、長期的な顧客関係を構築する基盤ともなる。
部分的に「積み残し」たAI要素も
WWDC 2025で発表されたビジョンは、個別のデバイスやサービスの改善を超えた、コンピューティング体験の根本的な再定義を示している。
一方で積み残した要素もある。
昨年、Apple Intelligenceの利点として挙げていた「パーソナルコンテキストAI」と「オンスクリーンコンテキスト」の2つのは、今年3月になって搭載が延期されてた。この2つがあると、複数のアプリケーションにまたがる同種情報の追跡が可能になる。
本来なら今春にも登場する見込みだったが、今回の基調講演では「1年後」を目処に開発しているとしている。背景には、異なるアプリケーションから集める情報を、適切に照合することの難しさがある。
しかしあらゆるかたちでデバイスに情報が集まってくる中、パーソナルコンテキストAIが実現できれば、アップルの事業基盤はさらに大幅な強化をされるに違いない。


