「日本経済に流れを」をミッションに、AI時代における企業の戦略パートナーとして、AIトランスフォーメーション (AX) を推進するスタートアップ、FLUX。2025年6月には44億円の資金調達を新たに行い、累計調達額は100億円に到達。さらなる拡大に向かっている。
2018年の創業以来、一貫してAIを活用し顧客の課題解決に取り組んできた同社。目まぐるしく進化するAIビジネスの最前線で、日本経済の未来をどう見ているのか。CEOの永井元治とCTOのEdwin Liが語る。
企業のAIへの関心が「経営のトップアジェンダ」に変わりつつある
ーーFLUXがこれまでどのような事業を展開してきたのか、お聞かせください。
永井:2018年に創業し、パブリッシャー向けに広告収益最大化・運用工数削減を実現するSaaS「FLUX AutoStream」の提供からスタートしました。
そこからさらに幅広くお客さまの経営課題を解決すべく、2023年に「FLUX Insight」を開始し、エンタープライズ企業のAI戦略を中心に、事業変革に必要な戦略立案から実行・改善までの支援を行っています。その過程で「DXを推進する人材がいない」という企業の課題が見えてきたことから、2024年に人材紹介サービスの「FLUX Agent」を立ち上げたのがおおよその流れです。
AI推進に必要なプロフェッショナルによるコンサルティングから、業務効率化に繋がるAIプロダクトの開発・提供、インハウス化するための人材採用・育成支援。これらをセットで提供する会社は日本にほとんどないと自負しています。
ーー生成AIの登場により、AIをめぐる状況は様変わりしました。起業してからの約8年間の変化をどのように捉えていますか?
Li:ここ数年のAIの進化のスピードにはすさまじいものがあったと思います。
私は学生時代からAIに関心があり、ケンブリッジ大学と東京工業大学(現 東京科学大学)で機械学習やアルゴリズムなどの研究開発をしていました。現在は東京大学松尾研究室に所属し、研究開発も続けています。
そのため永井さんとFLUXの事業を考えるにあたって「お客さまのペインにAIを当てる」発想は自然とあり、ChatGPTが話題になる1〜2年前から生成AIにも着目していたのですが、正直ここまでのブームになるとは想像していませんでしたね。
永井:創業当初は営業時にAIの説明をしても手応えは薄かったのですが、特にこの半年間は企業のトップアジェンダがAIによる経営課題の解決に変わってきているのを感じます。
やはり生成AIの進化がもたらした影響は大きく、マクロ環境の変化が当社にとっては追い風となっていますね。

AIによる経営課題解決を「ゼロから」設計
ーーAIブームに伴い、多くの企業がAIを用いたDX支援に参入しています。FLUXの競合も増えていると思いますが、他社との違いはどのような点にあるのでしょうか。
永井:お客さまの経済的な成果へのコミットに重きを置いている点です。
AIベンダーは独自のモデルやツール、プラットフォームを作って販売することが多く、コンサルティングファームもまた特定のシステム導入や運用が売上の大きな割合を占めている傾向があり、双方とも物売りの側面があります。
一方、当社では特定のツールやシステムを販売するのではなく、お客さまの立場に立った上でベストなソリューションをゼロベースで提案しています。AI投資によってどの程度営業の成約率が上がるかなど、「ビジネスのKPIをいかに改善するか」のみにフォーカスするのが強みであり、このスタンスが他社と一線を画す理由です。
Li:技術面では、世界のモデルにアクセスして最適なものを提供できるのが強みです。
生成AIの進化の中心はアメリカと中国ですが、中国の情報にアクセスできる日本のAI系スタートアップは多くありません。それに対し、当社にはAIやデータ関連の国際トップ学会で登壇・発表経験のある博士集団を中心としたAIチームがあり、アメリカや中国のみならず、ヨーロッパや東南アジアなど、世界中のリソースをバランスよく調達できます。
つまり、海外パートナーや最先端モデルの開発元と技術面で協力しながら、日本のお客さまに最適なソリューションを提供することで、エンタープライズ市場に対して独自の貢献が可能です。
ーーLiさんは東京大学松尾研究室に所属するなど、研究者としても活動しています。今後のAIの発展を踏まえて、DX領域でのAI活用にはどのような可能性があるとお考えですか?
Li:まずAIをめぐる状況ですが、最近では目指す進化の方向性がクリアになりつつあり、数年後のAIがどうなっているのか、おおよその予測がつくようになったと考えています。
例えば最先端の研究分野に、実際の空間内でものを操作したりロボットを動かしたりするモデルがあります。また、1〜2年後にはAIが専門性の高いツールを6〜7割操作できるようになる見込みです。
そうなれば、人間が時間をかけて操作方法を勉強する必要がなくなります。当社が創業時に掲げたミッションに「テクノロジーをカンタンに」がありますが、まさにそれが実現できる状況になります。
人手が必要なサービス業やブルーカラーの業務も、近い将来ロボットやAIが担える可能性が高くなってきました。そうなるとDXはもう一段階加速すると考えられます。

永井:将来的には従来の業務フローが全てAIに置き換わる可能性もあり、今後はDXからAIトランスフォーメーション(AX)に変わっていくと予測しています。
そうなるとAI時代に対応したビジネスを創造できる企業が飛躍的な成長を遂げると考えています。5〜10年後の社会に向けてどのような事業を行い、どのようなチームで、どう攻めていくのか。まさにゼロから作っている最中であり、AI領域の前線でビジネスを行いながら、同時に事業や組織作りも味わえる。それは今の当社で仕事をする面白さでもありますね。
DXからAXへ。AIが変える日本経済の未来
ーー「日本経済に流れを」というミッションの実現を100とした時に、今の御社の事業フェーズはどの位置にあると思いますか?
永井:まだ10分の1にも満たないと思っています。今後のAIの発展を考えれば、我々が提供できる支援領域はたくさんありますから。
一方で社内に目を向けると、6月には東京ミッドタウンへオフィスを移転して延床面積は5倍に。44億円の資金調達も発表し、累計調達額は100億円に到達しました。現在は300名ほどの従業員数ですが、2027年度には1,000名規模に引き上げるのが中期的なマイルストーンです。そのくらいの規模になれば、日本経済にインパクトを与えるスタートラインに立てると考えています。
直近では積極的な広告宣伝も予定しており、ある程度企業としての基盤は整いつつも、拡大に向けてスタートアップ的なチャレンジもできる環境です。そういう意味でも、まだまだこれからですね。
Li:調達した資金は引き続きAIをはじめとするテクノロジーにも投資していきます。今後は世界中の最先端技術をただ試すだけでなく、アメリカや中国のモデル開発元と直接接点を持ち、提携を強化することが重要だと考えています。
ーーこれからの未来を考えたときに、AIによって業界構造や業務の在り方が激変することが予想されます。今後の日本経済に対して、お二人はどのようなイメージを持っていますか?
永井:AIの進化に伴い、この1年ぐらいで「意外に悪くない」と思うようになりました。
日本の一番の問題は人口減少ですが、人手が必要な業務の多くも近い将来ロボットやAIが担うようになれば、問題は小さくなり、世界から日本への投資意欲や、地政学的な安定性の重要性が増していくと見ています。前者に関しては訪日観光客が大きく増えていますし、後者についても現状大きなリスクはありません。
Li:私は日本経済に対して、楽観的な立場です。アメリカや中国を超えるのは考えにくいですが、次点のポジションでうまくやっていけるのではないでしょうか。
また、金融やAI領域で成功したアメリカや中国、ヨーロッパの友人の中には「日本に移住したい」という人が多くいます。そういった人材が日本に集まることで起きるインパクトも大きいはずです。
ーー深刻な人口減少の問題をクリアする意味でも、AIの重要性は増していきそうですね。
永井:その通りです。AIによって社会構造が変化するということは、社会をアップデートするチャンスでもありますから。そのチャンスをつかむためにも、より良い未来を作っていきたいという志を持つ人材の採用を強化しています。
Li:AI領域は皆さんが想像する何倍ものスピードで進化しており、世界中の開発者から毎日のように最新情報が入ってきます。
そして、最先端の技術を社会実装していくチャンスもたくさんあります。AIの現在地とお客さまの経営課題を照らし合わせ、「日本のエンタープライズ企業にとって最適なAIトランスフォーメーション (AX)とは何か」をクリアにしていくのは、私にとっての楽しさでもあります。
ただAIの研究をするだけでなく、お客さまに伴走しながら、失敗も含めた試行錯誤を楽しめる人にとって、刺激的な環境です。
永井:社会への貢献意欲がある人にとって、今のAIビジネスの潮流に身を置くのは面白いと思います。飛び込むには良いタイミングだと思っています。
FLUX
https://flux.jp/
永井元治◎ベイン・アンド・カンパニーに入社し、大手通信キャリアの戦略立案・投資ファンドのデューデリジェンス・商社のM&A案件などに従事。2020年「Forbes 30 Under 30 Asia、Media, Marketing & Advertising部門」選出。2018年5月に株式会社FLUXを創業、代表取締役就任。慶應義塾大学法学部卒業。
Edwin Li◎東京大学松尾研究室所属。中国英語翻訳者資格最年少記録保持者であり、学生時代には中国国内にて数学・天文学・物理学・化学オリンピックで優勝。ケンブリッジ大学コンピューターサイエンス学部に特待生で進学(中国全土で年間3〜5名が選ばれる特別選抜プログラムASTに選抜)。東京工業大学工学部卒業、東京大学工学系研究科修了。機械学習、深層学習、大規模言語モデルが専門。