バイオ

2025.06.14 15:15

ハエが教える最強チームの作り方。「臆病者」と「大胆な奴」を混ぜろ

Getty Images

Getty Images

社会の多様化が叫ばれているが、その反動か、異質な人たちを排除しようとする動きも世界中で見られる。社会やコミュニティーの多様化には、はたしてどんなメリットがあるのだろうか。それを小さなハエたちが教えてくれた。

advertisement

同じ種類の生き物は同じような性質を持つとされているが、人間と同じく、虫や動物にも個性がある。活発に働くやつ、サボるやつ、適当に働くやつなど。そうした個性が混在する群と、そうでない群とでは集団行動に違いがあるのか。千葉大学大学院融合理工学府博士後期課程1年の奥山登啓氏らによる研究チームは、約100系統のキイロショウジョウバエを使って実験を行った。

「系統」とは、自然界で捕獲したショウジョウバエの雌の子孫同士で交配を繰り返して作られた集団のこと。遺伝的特徴のばらつきが少なく個性がそろっている。研究チームは、同じ系統の6匹のハエによる「均質集団」と、異なる系統の3匹ずつを組み合わせた「多様集団」を作り、それぞれを直径3センチメートルの円形の容器に放って自由に行動させた。その様子を5分間観察した。

すると、均質集団の個体は容器の縁を歩いていたのに対して、多様集団の個体は容器の中央を歩き回ることが多かった。広い空間は外敵に襲われやすいので、臆病者は端っこを好む。そこを歩けるのは大胆な証拠だ。これは単なる推測ではない。スウェーデン大学のカリン・マグナゲン博士が2005年に発表した動物の行動に関する論文が示したように、広い場所で行動することは動物の大胆さを表す行動指標として注目されているのだ。多様集団の大胆さの期待値は、均質集団よりも最大で約30パーセントも高かった。

advertisement

ただ、組み合わせによっては大胆さが低下することもあった。調べてみると、2つの系統の行動量の差が大きいほど大胆さが増すことが判明した。そこでは、行動的な個体に影響されて、消極的な個体も行動量が増える。このように互いの個性が影響しあって行動が変化することを「社会的促進」と言う。集団が大胆になれば、空間内を満遍なく歩き、効率的にエサなどの資源を入手できる。つまり、多様な集団は社会的促進により全体の行動力が増し、集団の維持や発展が期待できるということだ。

研究チームは、今後、生物の多様性が導く影響を詳細に調べ、集団における多様性の効果的な活用法を検討すると話している。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事