ベストセラー『センスメイキング』の著者であるクリスチャン・マスビアウ。そんな彼が今、重要視しているのが「観察」だ。その理由とは。
「あなたは、本当に『そこにあるもの』を見ていますか」
ニューヨークのコンサルティング会社「ReDアソシエーツ」の共同創業者、クリスチャン・マスビアウは、「観察」のプロとして、これまで多くの教え子やクライアント企業の開発担当者に、こう問いかけてきた。
彼は、新刊『心眼 あなたは見ているようで見ていない』とベストセラー『センスメイキング』(いずれも、斎藤栄一郎・訳、プレジデント社)の著者でもある。「意見を捨て、まずは『見る』ことから始めよ」と説くマスビアウに「観察の極意」を聞いた。
──『センスメイキング』と『心眼』に通底する問題意識を教えてください。
クリスチャン・マスビアウ(以下、マスビアウ):「人間は人間観察にたけており、観察の仕方は訓練で学べる」という考え方だ。人間観察は非常に重要なスキルだ。人々の行動を見て理解することはモノづくりに役立つ。世界中の大企業が「観察」によって、より良い製品やサービスを生み出している。
──「見ること」に注目した理由は?
マスビアウ:新刊は授業から生まれた。10年間、ニューヨーク市の大学院で観察の仕方を教えたが、その集大成が『心眼』だ。これは哲学的な本であり、「よりよく見るには、どうすべきか」がテーマだ。
ビジネスで観察が重要な意味をもつのは、消費者のニーズをつかむのが難しいからだ。しかし、彼らの行動パターンを観察することで、ニーズに合ったものを提供できる。観察は「洞察の要」であり、洞察は「イノベーションの要」だ。最も優れたビジネスピープルの多くは、偉大な起業家のような観察眼をもっている。
人々は何かを見る際、自分の意見を基に観察し、その意見に沿った結論を下す。だが、まず観察から始め、その後、意見を形成すべきだ。先入観を捨てて観察し、判断することなく、記録する。分析は、そのあとだ。考えてはいけない。その目で見るのだ。「何よりも難しいのは、本当にそこにあるものを見ること」だ。「判断と意見のレンズ」を外すことがイノベーションを生む。
──優れた観察者になるための3原則を挙げていますね。説明してください。
マスビアウ:優れた観察者は、単に何が起こっているかを問うのではない。人々の活動や世界との関係、対象となる世界を人々がどのように経験しているかを問う。これがひとつ目の原則だ。観察は「経験の研究」だ。
次の原則は、「人々が何を考えているかではなく、どのように考えているかが重要」だというものだ。大切なのは意見でなく、思考パターンだ。最後の原則は、見ることは「観察であって、意見ではない」というものだ。意見は観察を弱め、観察は意見を弱める。



