欧州

2025.06.10 10:30

ウクライナは独自に原爆を開発できるのか? ロシアの侵攻を食い止めるために

ロシアの大陸間弾道ミサイル(ICBM)「トポリM」。2022年8月20日撮影(The Washington Post via Getty Images)

ロシアの大陸間弾道ミサイル(ICBM)「トポリM」。2022年8月20日撮影(The Washington Post via Getty Images)

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、自国が北大西洋条約機構(NATO)に加盟するか、核兵器を保有することによってのみロシアの侵攻を食い止めることができると発言した。これを巡り、核兵器の専門家が興味深い思考実験を行った。

実際にウクライナは原子爆弾を開発し、国境を越えてそれをロシアに到達させるミサイルを製造することはできるのだろうか? もしウクライナが独自のマンハッタン計画(訳注:第二次大戦中の米国の原子爆弾開発計画)に成功した場合、同国が原子爆弾を実際に使用することなく、ロシアの侵攻を止めることはできるのだろうか?

英首都ロンドンに拠点を置く国際戦略研究所(IISS)の核兵器専門家として知られるアレクサンダー・ボルフラス博士はフォーブスとの対談の中で、これらの難問について解説した。同博士は、ウクライナが原子爆弾の開発に乗り出した場合の潜在的な結果を予測し、核兵器の備蓄が恒久的な停戦の究極の守護者となり得るかどうかを考察した。

ウクライナは大陸間弾道ミサイル(ICBM)を製造していた長い歴史があるが、現在はICBMを保有していない。とはいえ、戦略核弾頭を搭載できる巡航ミサイルを製造している。また、ウクライナには複数の原子力発電所があり、これらの原子炉からウランを吸い上げることもできるが、核兵器となり得るまで濃縮するためには高度な遠心分離機のネットワークを構築しなければならない。同国北部のチョルノビリ(チェルノブイリ)原子力発電所は、ソビエト時代の1980年代に史上最悪の炉心溶融(メルトダウン)を起こした原子炉があり、少なくとも原子爆弾1発分のプルトニウムを保有している。

しかし、核兵器用の核分裂性物質を獲得するためのこうした潜在的な経路は、いずれも国際原子力機関(IAEA)が設置した監視団によって即座に発見されるだろう。ボルフラス博士は次のように説明した。「ウクライナ領土に存在する核分裂性物質はすべて、IAEAの厳重な監視下にある。IAEAの査察官は、原子炉燃料やプルトニウムの核兵器への転用を直ちに察知し、ロシアに速やかに警告するだろう」

IAEAによる探知を未然に防ぐ唯一の方法は、ウクライナが核拡散防止条約から脱退し、査察官を追放することだろうが、こうした行動は、同国が秘密裏に核兵器を開発しようとしていることを吹聴するようなものだ。また、ウクライナが高濃縮ウランを製造する施設を秘密裏に運営しようとしたとしても、ロシアをはじめとする各国の情報機関から隠蔽(いんぺい)するのは困難だろうとボルフラス博士は指摘する。ウクライナ全土で爆撃目標を選定している者を含め、ロシアの諜報員はあらゆる手段を講じてこれらの施設を探し出し、破壊するだろう。ボルフラス博士は、ロシア政府は先制攻撃、場合によっては核ミサイルによる先制攻撃を選択する可能性さえあるとみている。

同博士は、信頼に足る抑止力を構築するためには、ウクライナは核分裂爆弾や核融合爆弾を1発だけでなく、少量ずつ集める必要があり、それによってロシアに探知される可能性が高まるため、これらの核兵器が配備される前に破壊する動機が高まると予測している。

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翻訳・編集=安藤清香

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