中国が最初に核融合を実用化することの影響はいくら強調してもしすぎることはない。たとえばもし1920年代に日本やドイツが自国の領域内に莫大な石油埋蔵を発見していたら、その後の歴史がどうなっていたか想像してみてほしい。米国やソ連の石油資源は連合国側に、枢軸国側に対する戦略的優位性を与えていた。もし状況が逆だったら、第二次世界大戦は違った結果になっていたかもしれない。
西側諸国の民間核融合企業は合計で80億ドル(約1兆2000億円)ほど調達しているのに対して、中国は1国で核融合プロジェクトに年間少なくとも15億ドル(約2200億円)投じている。米政府の支出額のざっと2倍だ。日本とドイツの投資は中国に遠く及ばず、カナダにいたっては核融合向けの資金に関する戦略すらない。業界のリーダーであるジェネラル・フュージョンはカナダのブリティッシュコロンビア州に本社を置くが、州政府はこの貴重な資産の価値を理解していないようだ(筆者はジェネラル・フュージョンに投資しており、同社の取締役を務めていることを断っておく)。
中国は核関連のあらゆる分野で飛躍的に進歩している。中国の科学者チームは4月、燃料にウランではなくトリウムを使うトリウム溶融塩炉で、運転中の燃料補給に世界で初めて成功したと発表した。中国の内モンゴル自治区で発見されたトリウム埋蔵は、理論上、中国のエネルギー需要を数万年賄える可能性があるという。じつを言えば、この炉はもともと米国で設計されたものだった。プロジェクトの主任科学者、徐洪傑は「米国は研究成果を公開し、ふさわしい後継者が現れるのを待っていました。わたしたちがその後継者です」と述べている。
これに先立つ1月には、中国の「人工太陽」とも呼ばれる「全超伝導トカマク型核融合エネルギー実験装置(EAST)」が、定常状態で高閉じ込めプラズマを1066秒間維持し、記録を更新していた。また「燃焼プラズマ超伝導トカマク型実験装置(BEST)」と呼ばれる中国の核融合炉は2027年に稼働を開始する可能性があり、消費エネルギーの5倍のエネルギーを生み出すと見込まれている。BESTがこの画期的な成果を発表するころ、西側諸国の核融合企業は資金不足を訴えているかもしれない。


