米国が中国のような台頭する大国にヘゲモニー(覇権)を奪われるとしたら、どのような条件が必要だろうか。
現時点では、米国は経済的にも軍事的にも優位に立っているように見える。しかし、国家戦略(米国にそれがあるとすればだが)に関しては、中国との間ではっきりとした違いがある。
ドナルド・トランプ政権下の米国は過去への回帰を志向している。米国は1950年代にピークを迎えた製造業経済の復活を目指している。まるで、何十年も生えなくなった場所に髪の毛を生やそうとする老人のように。米国は国内の石油、天然ガス、石炭の生産と利用にも一段と力を入れている。関税、北大西洋条約機構(NATO)の軽視、カナダやデンマークといった同盟国に対する攻撃的な態度によって、米国主導の世界秩序を長年支えてきたパートナーたちを疎遠にしている。
対する中国は、未来の経済の開発で圧倒的にリードしている。中国は、電子機器、再生可能エネルギー設備、兵器などの生産に不可欠なレアアース(希土類)をほぼ独占している。太陽光、風力、電池といった急成長中のエネルギー分野でも先行している。電気自動車(EV)、産業用ロボット、ドローン(無人機)でも先を行く。人工知能(AI)に関しても、中国はおそらく米国と同等の水準に達しており、近いうちに追い抜く可能性もある。また、中国が仮に台湾を支配下に置くことになれば、先端半導体の製造でも世界市場を牛耳ることになるだろう。
これらの陰に隠れているが、おそらく最も重要な動きとして、中国は米国や不満を募らせるその同盟諸国よりも先に核融合エネルギーの商業化も実現する可能性がある。米国と違って、中国は国内のエネルギー業界の声高なロビイスト(と彼らに買収され得る政治家)に進歩を邪魔されることがない。中国が国家戦略として核融合に資金をつぎ込む一方で、西側諸国の民間核融合企業は、低いリスクと短期のリターンを求めがちな投資家の意向に左右されている。
核融合エネルギーは、安価で豊富、そして二酸化炭素を排出しないベースロード(基幹)電源を約束する。核融合発電を電力源とするAI、データセンター、産業用ロボットは、化石燃料発電に依存するバリューチェーンよりもはるかに低いコストで製品やサービスを生み出すだろう。また、攻撃を受けにくい地下深くに設置された小型で分散型の核融合発電施設から電力を供給される、小型で安価なドローンやロボットを多用する軍隊は、脆弱なサプライチェーン(供給網)に依存する大型で高価な石油燃料車両を使用する軍隊に対して優位性を持つと考えられる。