ニーズを切り分けて考える
田尻:僕は全部含めて「ニーズ」と捉えたうえで「ニーズ構造」と呼んで分析しています。「ニーズ」をこのように分類していて、上から見ると4等分された正方形が二段に重なっていて、私たちとお客様という縦横の軸がそれぞれ「知っている」「知らない」に分かれた「ジョハリの窓」の状態になっています。上の段は、あるものが欲しいという「通常のニーズ」、つまり「機能的ニーズ」。下の段は、その裏にある本当に欲しい「裏のニーズ」です。
例えば、飲み物が欲しいとすると、単に喉が渇いているという「通常のニーズ」です。生理的ニーズかもしれません。でも、飲み物があることによって、場を和ませることができて商談が上手くいくとなると、「裏のニーズ」になってくる。本当に欲しいと思うような「顧客のインサイト」は、この「裏のニーズ」に集約されてくる。

実は、売れるニーズは何かというと、「お客様にとって知らなかった、気づいていなかった潜在ニーズ」です。私たちが発見することのできた「顕在ニーズ」のさらに「裏のニーズ」を訴求できること。例えば、人の命が救いたいのに救えない。それがこのパッチで救えるようになるという、そういうものです。これを最初から訴求できているのがキーエンスの新商品です。このようにニーズを切り分けて考えると、新商品の企画の時に市場に受けるかどうかが見えてくる。
意味のイノベーション
戸松:今の話に関連しますが、ミラノ工科大学にロベルト·ベルガンティという教授がいて、「意味のイノベーション」について本を書いているのですが、これがとても面白い。例えばろうそくを例に挙げていて、今ろうそくは光を与えるという機能は失われつつある。でも売れ続けている。有名なキャンドルブランドもある。どちらかというと感情を動かすような「やすらぎ」や「お祝い」に意味を変えていますよね。つまり、「機能」は全く変わっていないのに「意味」だけが変わってきている。これは、僕の中では「インサイト」と近い感じがしています。さらに言うと、「意味」と表裏の関係にあるのが「コンセプト」だと思うんですよね。この「コンセプト」は、やはりマーケティングでは一番大事なものになってくるじゃないですか。要は「インサイト」を捉えることができて「コンセプト」を作れた事業や事業共創はやはり強い。コンセプトはとても重要だし、事業共創の分野であまり語る人がいないのが逆に不思議です。
今回のクロストレプレナーアワードが盛り上がったのも、僕はそれが正体だと思っています。コンセプトが面白かったのです。「ローカルの繊維産業由来の心臓パッチが子供の命を救う」というコンセプトが非常に心を動かした。
━━逆に、事業共創をめざす時にはコンセプトが見つからないといけないですか。
戸松:いや、それができたら僕も困らないと思います。やはり偶発性は高いと思います。スタートアップと同じで、起業した本人たちもインサイトがあるかどうかに気がついていない可能性がある。今回表彰された人たちも、Forbes JAPANに表彰されて初めて気づいた人たちもいるじゃないかな。「俺たちってそんなに価値があることをやっていたんだ」って。


