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2025.06.11 08:00

人型ロボット開発最大の難関「器用な手」を生み出す義肢メーカーの挑戦

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米ヒューストンを拠点とするヒューマノイド(人型ロボット)のスタートアップPersona AI(パルソナAI)のチーフエンジニアを務めるマット・カーニーは、もともとロボットを作りたいわけではなかった。マサチューセッツ工科大学(MIT)で機械工学とバイオメカトロニクスを研究した彼は、手足を失った人々を支援するバイオニック義足の開発に取り組んでいた。カーニーは、筋肉からの信号を読み取って反応したり、自律的に動いて自然な動きを可能にする「人間のためのロボット脚」を作りたいと考えていたのだった。

しかし、そうした「バイオニクス」と呼ばれるロボットを開発する会社の資金調達についてベンチャーキャピタルと話し始めたとき、彼はすぐに市場が望んでいるのは人間の手足を置き換えるロボットではなく、「人間そのものを置き換えるロボット」だという現実に直面した。投資家たちは、コストのかかる医療分野に乗り出すのはやめるべきだと警告し、「ヒューマノイドや外骨格スーツを作る気はないか?」と繰り返し問いかけてきた。

そこでカーニーは方向転換し、ヒューマノイドのロボティクス企業であるパルソナAIのチーフエンジニアに就任した。累計調達額が2700万ドル(約38億9000億円)の同社は、Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)やFoundation Robotics(ファウンデーション・ロボティクス)、Figure AI(フィギュアAI)など、この分野のユニコーンをライバルに見据えている。

カーニーは、いつかは義肢の分野に戻るつもりでいるが、彼のようにもともとは人間のためのバイオニック義肢を作りたいと願っていたにもかかわらず、ヒューマノイドに転向した起業家は他にもいる。たとえば、サンディエゴに拠点を置くPsyonic(サイオニック)は、2021年に純粋な義肢メーカーとして設立され、防水仕様で触覚センサー付きのロボットハンドを開発していた。同社の義手は米国の医療保険制度のメディケアの給付対象に選ばれ、患者が保険を通じて購入可能になっていた。

しかし、設立から間もなくして同社の創業者でCEOのアーディール・アクターは、自社の製品に新たな市場があることに気づき、メタの人工知能(AI)プロジェクト向けにプロダクトの供給を開始した。そして、2023年にはヒューマノイドが大ブームとなり、需要が急増した。現在、サイオニックのビジネスの大半はApptronik(アプトロニック)などのロボティクス企業向けの高度な手のロボットの提供となっている。

義肢メーカーが、ヒューマノイド分野にシフトすることには利点がある。この分野には何億ドルもの資金が注がれたことで、アクチュエーターやセンサー、制御システムなどのヒューマノイドとバイオニック義肢の両方に必要なコア技術のコストが下がりつつある。アクターは、「この流れによって義肢のテクノロジーの開発が進み、価格も下げられるようになった」と話している。

相次ぐ義肢メーカーの「転向」

テキサス州サンアントニオのAlt-Bionics(アルトバイオニクス)の創業者でCEOのライアン・サアヴェドラも、自身がロッククライミングで手を負傷した経験から、安価な義肢の開発を志した。しかし、同社も現在では義肢よりも多くのロボットハンドを、アプトロニックを含むヒューマノイドの大手向けに販売しているという。また、英国のリーズを拠点とするCOVVIも、個々の指が動かせる義手を作ってきたが、最近ではヒューマノイド向けに特化したロボットハンドをリリースした。

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編集=上田裕資

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