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2025.06.10 13:15

米国スタートアップ14.5%に在籍 日本でも生まれ始めた「CoS」の正体

mtmphoto / Shuttterstock.com

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イーロン・マスクやピーター・ティール、マーク・ザッカーバーグ、エリック・シュミットといったシリコンバレーの大物が採用したことから有名になり、米国のスタートアップで浸透しつつある役職がある。それが「チーフ・オブ・スタッフ(CoS)」だ。米国の経営コンサルティング会社シダーは2023年第1四半期、前四半期に資金調達を行った392のシリーズA/Bの米国スタートアップのうち14.5%にCoSが在籍していると明らかにしている。

このトレンドが、日本のスタートアップにも流れてきている。2021年頃から導入する企業が現れはじめ、2024年に入ってからは複数のスタートアップでCoSの募集や採用をする動きがみられるようになった。ITデバイス・SaaSを統合管理できるクラウドサービスを提供するジョーシスや福利厚生サービスを提供するHQ、AIによる営業支援ツールを手がけるナレッジワーク、米国で植物工場でのイチゴの生産販売を行うオイシイファームなどがCoSを採用している。

CEOの時間と意思決定の質を最大化させよ

CoSの大きな役割の一つは、CEOの時間や意思決定の質を最大化させることだ。実際にCoSを採用したことのある片道レンタカーサービスを手がけるPathfinderの小野﨑悠介CEOは次のように話す。

「CoSの仕事の一つはトップが抱えている仕事を棚卸しして優先順位付けすることです。CEOが時間を割くべきでない仕事を引き受けたり、長期的には重要だが今すぐに取り組む必要はないプロジェクトを進めたり。社長室長や社長の右腕という見られ方をしますが、あくまでもCEOに伴走する独立したポジションです」

同社で1年CoSを務めたLeapの原広大代表は週に2度、小野崎CEOと1on1をし、代表が抱える業務を整理。「自分が代表だったら何を優先するか、常に経営者視点をもつよう意識しながら動いていた」という。在籍期間では、銀行からの借入とトヨタとの業務提携の交渉が同時進行していた。トヨタとの提携は業績に直結するものであり、交渉やプレゼンは代表にしかできない仕事と考え、原氏は銀行とのやりとり全般を担当。経理や社内のコンプライアンスの整備など、小野崎CEOが抱えて進んでいなかった業務も引き受けた。

米国でイチゴの植物工場を手がけるオイシイファームのCoSである前原宏紀氏も同様の考え方で、例えば資金調達では、投資家へ事業内容や熱意を伝えるのはCEOが自らの言葉でやるべきことと捉え、ピッチ資料の作成や、デューデリジェンスのやりとりに専念した。前原氏が考えるCoSは「社長という機能の最大化や拡張によって企業価値をあげること」だ。社長個人の顔色を伺うのではなく、会社が向かうべき方向に自分なりの軸を持ち、社長にしかできないことや今解決すべき課題を考える。影の司令塔として機能しているのだ。

そのためには、CEOだけでなく全ての経営陣の考え方や認識も理解をしておかなければならない。前原氏は、週に一度は各人とヒアリングをする時間を設け、大きな認識のズレが生じている場合には、経営陣と必要な関係者を招集して会議を設定するという。

「例えば事業の戦略設計を決めていく段階で各経営陣が描いていることにズレがあると、その後の意思決定に時間がかかったり実行段階で混乱を招きますが、時間が最重要な経営資源であるスタートアップではこれは致命傷になります。各部門が担う業務の専門性が深く、日々急速に状況が変化するスタートアップでは経営メンバーが見ている”景色”を揃える重要性が非常に高い」

会議では、どこに理解の齟齬があるかを伝えてすり合わせたり、トレードオフを提示して意思決定を促したり、ファシリテーターとしても動く。

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文=露原直人

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