「ぶさかわいい」ぬいぐるみのエルフは、いかにおもちゃの世界を超え、数十億ドル(数千億円)を稼ぎ出すアイコンになったのだろうか?
あらゆるところでデジタルアバターが幅を利かせ、バーチャルグッズが驚くほどの利益をもたらすこの時代に、最も消費者の心をつかんだもののひとつに、間違いなくリアルな、小さな、そして少々風変わりなものがある──大きく目を見開いた、歯並びの悪い想像上の生き物、「Labubu(ラブブ)」だ。
香港出身のアーティスト、カシン・ローン(龍家昇)が中国の玩具大手POP MART(ポップマート)のために考案したこのキャラクターは、北欧の民話にインスピレーションを得たというもの。当初はニッチなアートトイだったが、今ではティーンエイジャーから誰もがその名を知るセレブたちまで、世界中の何百万もの人たちに愛される人気ぶりとなっている。
だが、これは単にかわいいキャラクターの話にとどまるものではない。ラブブの人気急上昇が示唆するのは、ノスタルジア、ミステリー(謎)、デジタル社会のバイラル性、そしてアイデンティティドリブン(共鳴型)の収集が混じり合うことによって起きた、消費者行動の大きな変化だ。
ラブブ人気の背景
ポップマートとローンのコラボレーションによって生み出された「モンスターズ」シリーズのキャラクターのひとつ、ラブブを際立せているのは、従来のトイデザインのルールにとらわれない、ぬいぐるみの体と大げさな表情、気味の悪さもあるかわいらしさ、という特徴だ。
そしてポップマートの特徴な点は、キャラクター・ライセンス事業だけでなく、販売手法にある。どのバージョンが入っているかわからない「ブラインドボックス」に入れてフィギュアを販売することは、コレクターたちにとっての購入をある種の賭けにしている。それは、ポップマートのまさに絶妙な思いつきだった。
驚かされるスリル感、コンプリートセットにしたいという衝動、希少なエディションを入手することによって得るステータス、それらを提供するこうした「ミステリー・モデル」は、深く人の心理に訴えるものだ。こうした要素を持つアートトイであることに加え、それが限定版となれば、それはもはや単なるトイではなく、文化資本となる。