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2025.06.10 11:00

私の夢は、老いた両親の「尊厳」を守るロボット ApptronikのCEOが見据える未来とは

2024年3月、SXSW 2024のカンファレンスに登場したApptronikのヒューマノイド「アポロ」(Photo by Mike Jordan/SXSW Conference & Festivals via Getty Images)

2024年3月、SXSW 2024のカンファレンスに登場したApptronikのヒューマノイド「アポロ」(Photo by Mike Jordan/SXSW Conference & Festivals via Getty Images)

ここ数年のヒューマノイド(人型ロボット)分野の熾烈な競争は、「現代版の宇宙開発競争」のようだと、Apptronik(アプトロニック)のジェフ・カルデナスCEOは例えた。かつて、NASAの宇宙飛行士支援用ロボット「Valkyrie(バルキリー)」の開発プロジェクトに参画した経歴の持ち主らしいコメントといえるだろう。同社は今年、そんな状況にふさわしい名を冠したヒューマノイド「Apollo(アポロ)」に大幅なアップグレードを加える計画だ。

「ヒューマノイドに取り組む企業が100社もあると聞くと、本当に驚かされる。私が2年前に話した投資家たちは『ヒューマノイドには意味がない』『ハードウェアには興味がない』と言っていた。しかし現在、彼らはこの分野に莫大な投資を行っており、ハードウェアが勝負を決めることになる」とカルデナスは最近、筆者のポッドキャスト番組のTechFirstで語った。

アプトロニックは、3月に完了したシリーズAラウンドで4億300万ドル(約580億円)を調達したと発表した。Bキャピタルとキャピタルファクトリーが主導し、グーグルのAI企業DeepMind、メルセデス・ベンツといった投資家が名を連ねた。日本郵政キャピタルも、フィジカルAIを搭載したヒューマノイドロボット開発への出資として参加したことを明らかにしている

課題は、迅速な市場投入と、手の届く範囲の価格で大量生産すること

アプトロニックはまた、年間売上高が300億ドル(約4.3兆円)規模の受託製造の世界的大手Jabil(ジェイビル)と提携し、生産能力の拡大を目指している。

「製造数を何万台や何十万台という規模に本気で拡大するつもりなら、正しい製造方法を学び、それを実行できる体制の構築が必要だ」とカルデナスは話す。

ヒューマノイド分野の課題はふたつある。ひとつは、競合がひしめく市場で最もスマートで、最も能力が高く、最も順応性のあるロボットをいち早く市場に投入することだ。ここでは、Figure AI(フィギュアAI)、テスラ、Agility Robotics(アジリティ・ロボティクス)、その他約20社のヒューマノイドロボット企業がまさにしのぎを削っている。

もうひとつの課題は、人々が手の届く範囲の価格で大量生産を実現することだ。

バンク・オブ・アメリカ(BofA)は、ヒューマノイドの大規模な商用利用が始まる2028年までに、大量生産が開始されると予測している。ヒューマノイドは世界の産業分野の雇用20%を代替できると見積もっており、これは現在約8億人が従事する職務に相当する。

BofAは、2034年以降はサービス業や家庭でのヒューマノイドの普及が進み、1世帯あたりの平均普及率が0.7台に達すると予測している。Figure AI(フィギュアAI)は、すでに今後4年間で10万台のヒューマノイドの出荷を計画中だ。

一方、中国政府は1380億ドル(約20兆円)を投じるロボット推進政策を展開中だ。カルデナスによれば、中国では世界を上回る台数の産業用ロボットが稼働中で、ヒューマノイド分野でもUnitree(ユニツリー)やAgibot(アジボット)、北京HRIC、EngineAI(エンジンAI)、Fourier Intelligence(傅利葉智能)、Kepler(ケプラー)が開発に取り組んでいる。

この分野では、最初に効率的かつ実用的なヒューマノイドを開発した国が、巨大な製造上の優位性を得ることになる。これがヒューマノイドの戦いが「新たな宇宙開発競争」とされる所以でもある。そしてアプトロニックについて確かなのは、この会社が勝利の可能性を高める資本力と製造体制を備えていることだ。

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編集=上田裕資

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