スペースXは米政府に国家安全保障衛星も供給している。米政府の情報機関、国家偵察局(NRO)は、地球低軌道上に数百基のスパイ衛星から成る数十億ドル規模のネットワーク構築で、スペースXに依存している。国際宇宙ステーションへの貨物や宇宙飛行士の輸送を巡り、ボーイングが宇宙船「スターライナー」の不具合修正に苦戦していることから、米航空宇宙局(NASA)もスペースXに頼らざるを得なかった。
しかし、スペースXの契約には比較的小額のものもあり、これらが解除の対象となる可能性もある。政府は請負業者が決まっていない初期段階の開発プログラムを探すことで、スペースXへの依存度を下げることができるかもしれない。例えば、先述のバークによると、スペースXは商用衛星サービスを戦術的な軍事通信に統合できるかどうかを試験する空軍の計画で、約1億4000万ドル(約200億円)の契約を獲得している。
トランプ大統領がマスクCEOに打撃を与える可能性のあるもう1つの方法は、スペースXが運営する衛星通信網「スターリンク」をウクライナ軍に提供する5億3700万ドル(約780億円)の契約を取り消すか削減することだ。大統領がこれに踏み切れば、ウクライナの戦局にも影響が及ぶだろう。
だが、既存の契約を標的にするより、新規事業を他社に誘導した方が、トランプ政権はより大きな打撃を与えることができるだろう。米商務省は、3月に発表した地方のブロードバンドアクセス拡大に向けた420億ドル(約6兆1000億円)規模の計画の見直しを撤回する可能性がある。これは、スターリンクが補助金獲得競争に参加するためのものだった。この計画には、これまで光ファイバーケーブルを敷設する通信会社しか含まれていなかった。
トランプ大統領は就任演説で約束した、マスクCEOの究極の野望である火星到達への支援を撤回する可能性もある。ハリソンは、トランプ大統領が単独でスペースXに重大な損害を与えることができるのは、NASAのミッション目標を方向転換させることだと分析している。
マスクCEOの気まぐれな性格を考えれば、政府がスペースXから離れて多角化を図るのは悪い考えではないかもしれない。他方でバークは、この確執により、民間企業が長年にわたり国防総省をはじめとする米国の国家安全保障機関に対して築いてきた信頼が水の泡になってしまうのではないかと懸念している。「イーロン(・マスク)のふざけた態度は、テープを巻き戻す恐れがある」



