米国のドナルド・トランプ大統領と実業家のイーロン・マスクとの対立が公になる中、特に目立ったのが、マスクが所有する企業との政府契約を解除する可能性を大統領が示唆したことだ。
主な標的となるのはマスクが最高経営責任者(CEO)を務める米航空宇宙企業スペースXだ。同社は少なくとも210億ドル(約3兆円)の政府契約を請け負っており、現時点で約130億ドル(約1兆9000億円)の契約が残っている。
だが、マスクCEOはそれほど恐れる必要はないだろう。トランプ大統領が腹いせに契約を解除するようなことがあれば、政権側は長期にわたる法廷闘争に巻き込まれる可能性が高いからだ。さらに、世界最大手の宇宙船打ち上げ企業であり、地球低軌道衛星のメーカーでもあるスペースXは、米政府にとって必要不可欠な存在になっている感がある。
宇宙開発業界を専門とする米コンサルティング企業キルティースペースのキンバリー・バークは、米政府はあまりにもスペースXに依存し過ぎているため、単にソーシャルメディア(SNS)上の炎上を理由に同社を排除することは難しいとみている。とはいえ、解除が可能な契約もあり、政府が今後スペースXへの依存度を下げる方法もある。
トランプ政権がスペースXに打撃を与えるには
スペースXが昨年打ち上げた134基のロケットは、世界の全人工衛星の83%を軌道に投入した。同社が開発した2段式ロケット「ファルコン9」は信頼性が高く、部分的に再利用も可能なことから、スペースXは米政府が国家安全保障のために行う打ち上げを独占するようになった。スペースXの主な競合相手は、米国の航空大手ボーイングと防衛大手ロッキード・マーチンの合弁企業であるユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)だ。だが、同社は新型ロケット「バルカン」の開発が数年単位で遅れたことから、スペースXの後塵(こうじん)を拝している。
米政府は今後、軍事衛星を宇宙に送り込むための選択肢を多角化するかもしれない。バルカンは現在運用中で、マスクCEOと競合する億万長者のジェフ・ベゾスが設立した米宇宙開発企業ブルーオリジンも1月、自社のロケット「ニューグレン」の初打ち上げを成功させた。米宇宙軍の2027~32年までの契約では、スペースXが半分強の28回の打ち上げを請け負っているが、ULAは19回、ブルーオリジンも7回を獲得している。
しかし、アメリカンエンタープライズ研究所で防衛・宇宙産業の分析を担当するトッド・ハリソンは、ULAとブルーオリジンは規模拡大に手一杯だと語る。「スペースXの代わりになる企業は存在しない。競合他社は打ち上げできる容量が不足しているからだ」