経済

2025.06.07 15:15

スタンフォード大日本人コーチが提言━━米騒動、成長期のアスリートには「チャンス」だ

スタンフォード大学アメリカンフットボール部コーチ、河田剛氏。コーチ業の傍ら、シリコンバレーで日米双方のスタートアップのサポート/アドバイザーを務める

スタンフォード大学アメリカンフットボール部コーチ、河田剛氏。コーチ業の傍ら、シリコンバレーで日米双方のスタートアップのサポート/アドバイザーを務める

ここ数週間、愛する母国のニュースを見るたび、コメ、こめ、米である。母国愛に比べてあまり米に造詣の深くない筆者は、古米から古古古米まで、人生で一度または聞いたこともないような言葉が国のトップニュースであり続けることに正直驚いている。

この「米」問題に絡めて以下、日本のスポーツ・アスリート業界、とくにニュートリション(栄養・栄養摂取)に関して、ことある毎に一貫して言い続けてきたことを繰り返したいと思う。

——「日本人は主食と言われる米でお腹がいっぱいになってしまうから、身体が大きくならない」

リクルーティングが最も大事であるアメリカのカレッジスポーツにおいて、身長の高さを含む身体の大きさは、スカラシップ(奨学金)をオファーする我々にとって(幾つかの例外競技はありながらも)、最も大きなファクターの一つである。成長期にタンパク質やカルシウムを積極的に摂取して、骨や筋肉の成長を促すのが「装飾されたバイクに乗って登場する正義の味方」であると仮定するなら、米を主食としてそれを食べ過ぎることは「洞窟の基地にいる悪物」である。


前述の令和の米騒動の報道を見て、もしやこれは、成長期のアスリートにとっては「米離れ・タンパク質摂取向上」へのチャンスなのではないか? と思っているのは私だけだろうか?

プロテイン増強系のドリンクや料理がずらりと並ぶスタンフォード大学の生協
スタンフォード大学アメリカンフットボール部のウェイトトレーニングルームやロッカールームには,プロテインやリカバリーに必要なあらゆるドリンクやスナック(軽食系)、フルーツなどが効能を表す説明書きと共に常備されている

「頼むからその分、肉か魚を食べてくれ!」

ある日本のドキュメンタリー番組を見ていた時のこと、日本選手権を5連覇するような学生アメリカンフットボールチームの合宿での一幕。山盛りにもったどんぶり飯を抱えた若者が「1年生は、これを3杯食べないといけない決まりなんです」と照れくさそうに。思わず、テレビに向かって「頼むからその分肉か魚を食べてくれ!」と叫んでしまった。

どうして、アメリカに一番近くあるべきスポーツの、しかもトップレベルのチームにおいて、そして身体を大きくするのに一番大事な食事の場面で、そんな(私から見れば)、滑稽な場面が存在してしまうのだろうか?※筆者注:動画サイトで見たので、どれぐらい前かもわからない番組である。希望的観測も含めて、今は変わっているだろう。彼らの名誉のために。)

Getty Images
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そういう観点で見出したら、止まらない。高校生の運動部、大学生の野球部の寮生活、動画の共有サイトでそのような場面を見るたびに、そのような時代錯誤と言っても過言ではないようなシーンが散見される。


好きなもの、食べ慣れたものを食べているという精神的に健全な状態が大事であることは明白であるが、オリンピックや世界大会においての踏ん張りどころは、1日目や2日目ではなく、ちょうど日本食、つまり米が恋しくなった頃にやってくるはずである。

「知らない事は罪である」

ここ数年、「知らない事は罪である」と思うようになった。スポーツに関わる人,とくに指導者については、マネージしている数が多ければ多いほど、そのアスリート達のために、情報を積極的に取りに行かなければならないと思っている。

成長期の子供達を優秀なアスリートに育てあげたいのであれば、ご飯でお腹を一杯にさせてしまうことは、勉強やプライベート時間を犠牲にして彼ら彼女らにその競技だけをやらせていることぐらい「彼や彼女らの将来を考えていない短絡的な指導」であると言わざるをえない。

世の中に起こるピンチのうち、「どうにもならないこと」は、10%ぐらいではないか? 残りの90%は「ピンチはチャンス」というもはや伝承とも言えるような言葉が当てはまると信じている。

成長期のアスリート達が主食の米摂取を50%減らしてその分肉や魚を食べていくことにシフトできたなら、その分本当に必要な人に米が供給されたなら、私が夢にまで見る「日本のスポーツ界が社会との接点を増やしそれに貢献する」が実現できるのではないか。若きアスリート達、ピンチをチャンスに変えてみよう!

文=河田剛 編集=石井節子

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